2026年9月23日水曜日

打ち込んだ瞬間に嘘くさくなる — 演奏表現とMIDI CC

いいストリングス音源を買いました。プリセットの試聴を聴くかぎり本物にしか聞こえない。ところが自分の曲にメロディを打ち込んだ途端、急にゲームのBGMみたいになる。管楽器も同じで、ギターはもっとひどい。

音源のせいではありません。音が鳴りはじめてから終わるまで何も変わっていない — いわゆるベタ打ちだからです。実際の演奏はそうなっていないので。今日はその「変わるもの」をどう入れるかを見ていきます。

① ベロシティは音量ツマミではない 🔨

まず誤解をひとつ解いておきます。ベロシティを音の大きさの調整だと思っている人が多いのですが、実際の楽器で強さが変わると大きさだけが変わるのではありません。

ピアノの鍵盤を強く弾けばハンマーが弦を強く叩きます。すると音が大きくなるだけでなく、倍音がずっと多く出て明るくなる。 弱く弾けば暗く丸くなります。大きさと音色が一緒に動いているわけですね。

ドラムも同じです。スネアを弱く叩くと胴が鳴りきらず薄くて短い音になり、強く叩くと太く長く響く。音量だけ上げたものとはまったく違います。

いいライブラリはこれを複数のベロシティで別々に録音して解決しています。強さの区間ごとに違うサンプルが鳴る。だからベロシティを触ると音量だけでなく音色が実際に変わります。

📌 だからベロシティを全部100にすると

同じサンプルがずっと鳴り続けます。どんなに良い音源でも一種類の音しか出ない。ベタ打ちが打ち込み臭く聞こえる、第一の原因がこれです。

② 本当の問題は「音の中で変わらない」こと 📉

ベロシティをばらけさせても、まだ打ち込み臭さが残ることがあります。それは別の問題です。

ベロシティは音が鳴りはじめる瞬間に一度だけ決まります。そのあとは動かない。ところが実際の楽器は、音が鳴っているあいだもずっと変化しています。

🔹 バイオリン — 弓を動かしているあいだ圧力と速度が変わり続けます。一音の中で抑揚が付く

🔹 トランペット — 吹き込む息の強さが変わり続けます。長い音はたいてい少し大きくなってから終わりで抜けていく

🔹 人の声 — 言うまでもないですね

鍵盤楽器(ピアノ、チェンバロ)は例外です。叩いたあとは減衰していくだけなので。ピアノの打ち込みはそこそこ聴けるのに、ストリングスや管だけ打ち込み臭くなる理由はここにあります。 ピアノはもともと音の中で変わらない楽器で、ほかは変わる楽器だからです。

ということは、やるべきことがはっきりします。音が鳴っているあいだ、値を送り続けること。 その手段がCCです。

③ CC — 演奏中にずっと送る値 🎛️

CCはコントロールチェンジ(Control Change)の略です。MIDIで送る「調整値」で、番号ごとに役割が決まっています。大事な三つだけ見ます。

🔹 CC7 — ボリューム — チャンネル全体の音量です。ミキサーのフェーダーと同じ仕事をします。大きくしたり小さくしたりするだけで、音色は変わりません

🔹 CC11 — エクスプレッション — これも音量ですが演奏表現用です。ライブラリによっては音量だけを変えるものもあれば、音量と音色を一緒に変えるものもあります。フレーズの中で抑揚をつける値はこちらを使うのが慣例です

🔹 CC1 — モジュレーション — もとはビブラートを掛けるためのものでしたが、オーケストラ系のライブラリではたいていダイナミクスに割り当てられています。上げると弱く弾いたサンプルから強く弾いたサンプルへ滑らかに移る。音色が本当に変わります

ここでCC7とCC11を分けて使う理由が出てきます。CC7はミックス用に決めて固定しておき、CC11を演奏用にずっと動かす。 あとでトラックの音量を調整するときに、演奏表現を壊さずに済むからです。

📌 CC1とCC11をセットで使うのが基本

多くのオケ系ライブラリでこう使います。CC1で強さ(音色)を、CC11で音量を作る。二つを似せつつ、まったく同じには動かさないのがコツです。たとえばクレッシェンドでCC1を先に上げて、CC11を少し遅れて追わせると、音が「満ちてくる」感じになります。

⚠️ ただしアサインはライブラリごとに違います。 マニュアルを一度見るのが結局いちばん早いです。CC1がビブラートの製品もありますし、独自の番号を使う製品もあります。

道具はここまで。あとはその道具で何を描くかですが、これは楽器ごとに違います。

④ 楽器別の注文書 📋

基準はひとつです。人がその楽器を弾けば自然に出てしまうものを入れてやればいい。

🔹 弦楽 — 長い音は必ず中で動きます。平らな音は存在しないと思ってください。そして弓には長さがあるので数小節ごとに向きを変える必要がある。その地点でごく短く音量が落ちて戻る表現を入れると、印象がはっきり変わります

🔹 管楽 — 息があります。長いフレーズを切れ目なくつなげると、もう人ではありません。4〜8小節ごとに短い隙間を作り、その手前の音を少し短く切ってください。あと音ひとつずつの立ち上がりがごくわずかに遅い

🔹 ギター — ストラムは同時に鳴りません。 上から下へ振れば低い弦が先、下から上なら逆。コードの中の音を10〜30msずつずらして配置します。そしてコードが変わるときにフレットノイズ(指が弦をこする音)が出る。ライブラリに入っているなら必ず使ってください

🔹 ピアノ — 和音の音は完全に同時には押されません。数msずつずれます。そしてペダル(CC64)が音の半分です。踏めば弾いていない弦まで一緒に鳴って空間ができる。ペダルなしで打ち込んだピアノは、どれだけうまく弾いても乾いています

🔹 ドラム — 同じ手で連打はできません。16分のハイハットが全部同じ強さなら、それはもう人ではない。強弱を交互に入れて、オープンハイハットのあとには必ず閉じる音を入れます

こうして値を描き込むのとは別に、そもそもどの音を呼び出すかを選ぶ仕組みもあります。

⑤ キースイッチ — 奏法を切り替えるスイッチ 🎹

いいライブラリには同じ楽器の複数の奏法が入っています。弦なら長く弾く、短く切る、弾く(ピチカート)、トレモロといったものですね。

これを選ぶ仕組みがキースイッチです。演奏音域の外にあるごく低い鍵盤(C0あたり)を押すと奏法が切り替わる方式。MIDIエディタでは一番下に短いノートが並んでいる状態で見えます。

ここでよくある失敗がひとつ。曲全体をひとつの奏法で通してしまうことです。実際の演奏はフレーズごとに奏法が変わります。歌う場所は長く弾き、リズムを支える場所は短く切る。これを分けるだけでも完成度がかなり上がります。

奏法をきれいに分けても、一箇所だけ機械っぽさが残ります。同じ音が続く場所です。

⑥ 同じ音を連打すると機械っぽくなる理由 🔁

サンプルライブラリは同じ音を複数回録音しておきます。これをラウンドロビンと言います。同じ音を連続で弾いたとき、1テイク目、2テイク目、3テイク目の録音が順番に鳴るようにする仕組みですね。

なぜ必要かというと、人が同じ音を二回弾いても絶対に同じにはならないからです。微妙に違う音が出る。ところがサンプルがひとつしかないとまったく同じ波形が繰り返される。 耳はこれを非常によく聞き分けます。機関銃みたいだとよく言われますね。

ラウンドロビンがあるライブラリならオンになっているか確認してください。無ければ自分でばらけさせます。同じ音が続くところでベロシティを変え、発音位置を数msずらし、ほんの少しピッチを揺らすだけでもかなり良くなります。

ここまで出てきたものを手に馴染ませる方法はひとつしかありません。短い区間をひとつ置いて、段階ごとに自分で聴き比べることです。

⑦ 今日30分あればやれること ✅

ストリングスのメロディを8小節ひとつ用意して、順番にやってみてください。段階ごとに聴くのが大事です。

1. まず原型を聴きます。 ベロシティ全部100、CCなし。これが基準点です
2. ベロシティをばらけさせます。 フレーズの中で大事な音は上げ、通過する音は下げる。70〜110のあいだで動かせば十分です
3. CC11でフレーズに抑揚をつけます。 始まりは少し低く、真ん中で持ち上げ、終わりで抜く。山をひとつ描くつもりで
4. CC1も一緒に描きます。 CC11と似せつつ完全には同じにしない。クレッシェンドの区間でCC1を少し先に上げてみてください
5. 音の長さを直します。 隣り合う音を少し重ねたり(レガート)、離したり(スタッカート)する。全部同じ長さなら機械です
6. タイミングをばらけさせます。 いくつかの音を5〜15msずつ前後にずらす。とくにフレーズの最初の音を少し遅らせて
7. 息をする場所を作ります。 4小節目あたりで手前の音を少し早く切り、CC11を一瞬下げてから戻します

1と7を交互に聴くと違いがはっきりします。ノートは一音も変えていないのに、生っぽさがまるで違って聞こえるはずです。

⑧ 手を抜いていいところ 😮‍💨

全部やろうとすると疲れます。優先順位があります。

🔹 前に出ている楽器から — メロディを持つ楽器に時間を使う。後ろに敷くパッドは雑でもバレません

🔹 むき出しの区間から — 楽器が二、三本しか残らない区間は全部聞こえます。フル編成の区間は埋もれます

🔹 長い音から — 短く切る音は中で変化する時間がありません。CCを描く必要もない

🔹 本当にそう聞こえるかだけ確認 — リアルさが目的ではない曲も多いです。あえて機械的なほうがかっこいいジャンルもありますし

まとめ

最初に挙げた「ゲームのBGMみたい」という感じは、結局のところ音が悪いからではなく演奏が入っていないから起きます。どこに音を置くかは作曲で、その音をどう出すかは演奏。MIDIで作るときは、この二つ目を自分でやってあげる必要があります。

始め方は簡単です。ベロシティをばらけさせて、長い音に抑揚をつけて、息をする場所を作る。この三つだけでベタ打ちからは抜け出せます。

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