A. ロイヤリティフリーのサンプルは、ライセンスの範囲内で商用利用が許されるのが一般的です。ただしサービスごとに規約が違い、たいてい禁止項目があります。落としたサンプルをそのまま再販したり、別のサンプルパックに入れて配布したりする場合ですね。使う前にそのサービスのライセンス条項を一度読むことをおすすめします。ここに書いたのは一般的な整理であって法律のアドバイスではないので、実際の契約や争いは専門家に確認してください。
Q. 他の人が同じサンプルを使っていると知ったら?
A. それ自体は問題ではありません。どちらも正当にライセンスを受けているのですから。厄介なのはそのサンプルが両方の曲で中心の要素であるときです。ビーバーの例がそれでした。だから中心になる音ほど加工を重ねるか、自分で作るほうが安全です。背景に敷く要素なら重なっても大きな問題にはなりません。
Q. ワンショットとループ、どちらを落とすのがいいですか?
A. 目的によります。速く作る必要があるならループが効率的で、自分の色を出すならワンショットです。ループはリズムと和声がすでに決まっているので、落とした瞬間に曲のかなりの部分が決まります。楽ですが、そのぶん選択肢が閉じる。ワンショットは手間がかかる代わりに結果が自分のものに近づきます。個人的にはドラムはワンショット、質感の要素はループという組み合わせが無難だと思っています。
Q. 契約を解約したら、落としたサンプルは使えなくなりますか?
A. 一般的には、すでにダウンロードして曲に使ったサンプルは使い続けられます。ライセンスがダウンロードの時点で付与される構造なので。ただしこれも規約次第なので、各サービスの条項を確認するのが正しい。解約の予定があるなら、落としたファイルをローカルに別途バックアップしておくほうが安全です。
1956年のアルバム『Songs for Swingin' Lovers!』に入っている「I've Got You Under My Skin」。シナトラは弦16人、金管8人、サックス5人、リズム隊4人と同じ部屋で、一発録りで歌いました。場所はキャピトル・スタジオA。
エンジニアのジョン・パラディーノがSound On Sound誌に残した話が面白いんです。それまではRCA 44のリボンマイクを使っていたのに、U47に替えたとたんずっと欲しかった音がいきなり出た。中高域が明るくなり、指向性のおかげで声がオーケストラに埋もれなくなったそうです。この曲は22テイクまでいったといいます。
▶ Frank Sinatra - I've Got You Under My Skin — 大編成の上に、声だけがくっきり浮かんでいます
ノイマン U47。1949年に登場した真空管コンデンサーマイクです / 出典: CJ Sorg / CC BY-SA 2.0 via Wikimedia Commons
▶ The Beatles - Twist and Shout — 喉をつぶしたレノンが最後に歌った、あのボーカル
アビイ・ロード・スタジオに展示されているマイク。中央にU47とU48が並んでいます / 出典: Josephenus P. Riley / CC BY 2.0 via Wikimedia Commons
🔹 アデル — ロード Classic II、そしてU47
「Rolling in the Deep」のボーカルは、もともとデモ用に録ったものです。プロデューサーのポール・エプワースがロンドンのプライベートスタジオで、ロード Classic IIという真空管マイクを立てて録りました。エプワースいわく、完成版の歌はすべてデモのテイク。曲の頭で聞こえるアデルのもごもごしたカウントまで、そのまま残っています。
▶ John Mayer - I'm Gonna Find Another You — リボンマイクらしい丸い歌声
▶ Al Green - Let's Stay Together — 同じスタジオで録られた本家の音
RCA 77-DX リボンマイク / 出典: Jacob Blickenstaff / CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons
③ U47だけじゃない — C12、C414、U67、251 🎚️
🔹 ホイットニー・ヒューストン — AKG C12
「I Will Always Love You」(1992)を仕切ったのはプロデューサーのデイヴィッド・フォスター。ヒューストンは2回歌い、フォスターは最初のテイクを選びました。このとき使われたマイクがAKG C12だと伝えられています。米国の音楽誌Music Connectionが、このマイクを買い取ったスタジオを紹介する記事で書いた話です。エンジニア本人の証言ではないので、確定した事実とまでは言えません。
▶ Whitney Houston - I Will Always Love You — 伴奏なしで始まる歌い出し
AKG C12 VR(C12の復刻版、左)とC414(右) / 出典: Hens Zimmerman from Zeist, The Netherlands / CC BY 2.0 via Wikimedia Commons
シュア 565 ユニスフィア。ウッドストックで使われた実物です / 出典: Jud McCranie / CC BY-SA 4.0 via Wikimedia Commons
🔹 カート・コバーン — ノイマン U67、そしてEV PL20
『Nevermind』(1991)の歌は、ノイマン U67にLA-2Aを掛け録りして、そのままテープに入れています。プロデューサーのブッチ・ヴィグがSound On Sound誌で話した内容です。ネットでは「U87だった」という説も見かけますが、ヴィグがU87と言ったのは「Lithium」のギターアンプのほうでした。
ビヨンセのエンジニア、スチュアート・ホワイトは2012年からずっとテレフンケンの251で録っています。理由は実務的で、過去のセッションが全部251だから、あとで1行だけ歌い直してパンチインしても音がそのままつながる。コールドプレイの「Hymn for the Weekend」に客演したときも、ビヨンセ側は251を希望しました。この曲のプロデューサー、リック・シンプソンの証言です。
▶ Coldplay - Hymn for the Weekend — 曲のあちこちに重なってくるビヨンセの声
🔹 宇多田ヒカル — 自前のELA M 251E
251の愛用者は日本にもいます。『初恋』(2018)をミックスしたスティーヴ・フィッツモーリスは、ソニーのインタビューで、宇多田ヒカルの歌録りはテレフンケン ELA M 251EとNeveのマイクプリだと話しました。251は本人の持ち物です。
U87は業界標準と呼ばれるマイクです。フューチャーの現場では、これが録音の条件になっていました。エンジニアのセス・ファーキンスは「Draco」のとき、どのスタジオでもU87 Aiを頼み、なければ別のスタジオへ移ると話しています。チェーンはU87 Ai → Neve 1073 → Tube-Tech CL 1Bでした。
▶ Future - Draco — オートチューンの向こうに聞こえる、芯のある中域
ノイマン U87 / 出典: Michael Rhys / CC BY 2.0 via Wikimedia Commons
▶ HUNTR/X - Golden — 『KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ』公式リリック・ビデオ
🔹 ビリー・アイリッシュ — AT2020 → TLM 103 → 251
ビリー・アイリッシュのマイクを順番に並べると、そのまま成長の記録になります。デビュー曲「ocean eyes」は、兄のフィニアスがオーディオテクニカ AT2020で録りました。1万円台で買える入門用のコンデンサーマイクです。1stアルバム『WHEN WE ALL FALL ASLEEP, WHERE DO WE GO?』はノイマン TLM 103。フィニアスはSound On Sound誌で、TLM 103は誰にでも薦めると言っています。2ndアルバム『Happier Than Ever』のころにはテレフンケン 251に替えたそうです。
エド・シーランのデビューアルバム『+』(2011)は、メインの歌がほぼ全部sE Electronics Z3300aでした。プロデューサーのジェイク・ゴズリングがSound On Sound誌で明かしています。名機ではなく、手の届く価格帯のコンデンサーマイクです。『÷』ではヴィンテージのU47やSontronics Ariaを使った、とエンジニアのジョー・ルーベルは話しています。
▶ Ed Sheeran - The A Team — 手ごろなコンデンサーマイクで録ったデビュー曲
⑤ ダイナミックマイクで歌った名曲 🔊
🔹 マイケル・ジャクソン — シュア SM7
エンジニアのブルース・スウェディエンは、マイケル・ジャクソンのリードボーカルの大半をシュア SM7で録りました。「Billie Jean」も、『Bad』の「The Way You Make Me Feel」もそうです。SM7はもともとラジオ局向けに出たダイナミックマイク。それをあれだけの大作の歌に使ったものだから、首をかしげる人もいたとスウェディエン本人が振り返っています。Wikipediaには、「P.Y.T.」の歌はSM7だけで録られたと書かれています。
A. この記事の例だけでも幅はかなり広いです。ビリー・アイリッシュはAT2020から始めましたし、スプリングスティーンはSM57でアルバムを作りました。響きの多い部屋なら、かぶりを拾いにくいダイナミックマイク(SM58やSM7B)。静かで吸音もできている部屋なら、コンデンサーマイクが扱いやすいです。Adoのクローゼットのように、高いマイクより先に部屋をデッドにするほうが、音の差は大きく出ます。
Q. SM7Bはなぜあんなに人気なんですか?
A. マイケル・ジャクソンの「Billie Jean」の話がひと役買った、とはよく言われます。実際のところ、部屋の響きを拾いにくく、口を近づけて歌っても音が崩れにくいので、自宅で使いやすいんです。ただ出力が小さく、ゲインをかなり上げることになります。マイクプリが非力なオーディオインターフェースだと、ノイズも一緒に上がってくるので注意してください。
Q. ヴィンテージのU47と、いま売っている復刻版は違うものですか?
A. 違います。本物の1950年代のU47はそもそも出物が少なく、真空管などの部品も手に入りにくい。個体差もあります。だからテレフンケンのようなメーカーが、昔の設計をなぞった復刻版を出しているわけです。テイラー・スウィフトの『evermore』は、その復刻版のU47で録られました。
Q. ライブ用のマイクで録音してもいいんですか?
A. 大丈夫です。ボノとビョークがその証拠。ダイナミックマイクは周りの音を拾いにくいので、ヘッドホンなしでスピーカーを鳴らしながら歌っても録音として成り立ちます。マイクを握らないと歌が出てこないタイプの人なら、むしろそのほうが合っているはずです。
A. 最低でも一時間は席を立つほうが、やらないよりましです。外に出て別の音を聴いてくるのがとくにいい。まったく違う音楽を聴くか、ただ外の音を聴くか。耳の基準を元へ戻すのが目的ですから。どうしても無理なら、音量を普段よりずっと小さくして聴いてみるのも手です。小さく聴くとバランスの問題のほうがよく出てきます。
Q. 完璧主義はどう直せばいいですか?
A. 直そうとするより構造で防ぐほうが効率的です。完璧主義は性格なので変えにくいですが、「目標を三つ書いてそれだけやる」という手順はただ守ればいい。それと、知っておくと助けになることがひとつ。聴く人はミックスを聴いていません。 曲を聴いています。0.5dBの差に気づくのは、その曲を作った人だけです。
Q. マスタリングに出せば解決しませんか?
A. 解決するものとしないものがあります。全体のトーンバランスと音量はマスタリングで整います。 ですが特定のトラックが埋もれているとか低域が団子になっているのは直せません。トラック単位で手を入れられませんから。だから「マスタリングで何とかなる」と先送りしていいものと、いけないものを分けるのが大事です。おおむねバランスは先送りしてよく、個別の問題は先送りしてはいけません。
Q. 他の人の意見が割れたらどうしますか?
A. よくあることです。このとき使える基準は複数の人が同じ場所を指摘したかです。一人が「ボーカルが小さい」と言うのは好みかもしれませんが、三人が同じことを言うならそれは問題でしょう。逆にそれぞれ違う場所を指摘するなら、たいていそのミックスは良い状態にあります。そして誰が言ったかより何を言ったかを見てください。「いまいち」には情報がなく、「2番でギターがボーカルを隠す」には情報があります。