去年、Rossum SP-1200を少し無理して買いました。
無理して、とわざわざ書いたのには理由があります。これはスペックで説明のつく機械ではないからです。12ビットで合計20秒、ひとつの音は長くても2.5秒。今の基準で見れば、どんな無料プラグインにも及びません。それを分かった上で買って、1年使いました。
その1年で分かったことと、諦めた部分をまとめてみます。
💡 今日の要点3行
1. ピッチを上げてサンプリングして本体で下げる — あの音は本当に出ます。この機械を買う理由はここひとつです
2. チャンネルは8本で1本につき1音だけ。トラックという概念もないので、曲を組み立てる道具としてはかなり不便です
3. 復刻版はSDカード保存と、チャンネルごとのフィルター/ノンフィルター出力が別々に出ているのが効きます
① なぜわざわざこれを買ったのか 🎛️
本物の1200と偽物の1200。上に載せたほうがずっと軽くて、ずっと安いです。
オリジナルのSP-1200は1998年に製造終了していて、今の中古相場は最新のフラッグシップ機が何台か買える水準。Rossum SP-1200は、そのオリジナルを設計したDave Rossum本人が自分の会社で作り直した復刻版です。便利機能を足して現代化した製品ではなく、あの音をそのまま残すほうに重心を置いた機械ですね。
私が欲しかったのは機能ではなく音ひとつでした。90年代のブーンバップのアルバムで聴こえていた、あの質感です。プラグインで近くまでは行けたのに、最後のひと押しがずっと掴めませんでした。
② その音は、本当に出ました ✅
1年使っていちばんはっきり確かめられたのがこれです。
元の音のピッチを上げてサンプリングして、1200の中でまた下げる。 これをやると、90年代のアルバムで聴いていたあの音が出ます。近づくのではなく、そのまま出ます。
原理そのものはSP-1200の歴史の記事で扱った45回転トリックと同じです。短いサンプリング時間を節約するために速く録って遅く再生していた小細工で、その過程で生じる劣化が音色になった、という話でした。ただ、文章で読むのと手を動かすのはまったく別でした。ピッチを下げた瞬間に音が崩れて座るんですが、その崩れ方がプラグインで聴いていたものと違います。
💡 この機械を買う理由はここひとつです。あとは全部、不便さを引き受ける側の話になります。
③ チャンネル8本、1本につき1音 ⚠️
ここからが引き受ける側の話です。
MIX OUTで全チャンネルの音をまとめてモニターできるのは楽です。問題は1本のチャンネルが一度に1音しか鳴らせないことですね。同じチャンネルに複数の音を割り当てておくと、ひとつ叩いた瞬間に前の音が切れます。
ハイハットのオープンとクローズのように、わざと切りたい組み合わせならむしろ好都合です。ところが複数の音をサンプリングしてシーケンスを組もうとすると話が変わります。どの音をどのチャンネルに置くかが、単なる整理ではなくアレンジの問題になるんです。キックとベースを同じチャンネルに置いていて、互いを食い合っているのに後から気づいて並べ直したことが何度もありました。
本当に頭を使います。そしてこの場面で90年代のプロデューサーたちを見る目が変わりました。この制約の中であの名盤を出していたというのが、自分でやってみるとずっと大きなことに思えてきます。
④ トラックという概念がないこと 📉
正直、いちばん不便な部分です。
最近の機械に慣れた手で触ると、何度も引っかかります。トラック単位でオンオフして、別々に編集して、後から順番を入れ替える — あの感覚がここにはありません。シーケンスを少し複雑にしようとすると、すぐ窮屈になります。
当時なぜMPC60を使う人のほうが多かったのか、この機械を触っているとすぐ腑に落ちます。MPCは制約を消して標準になり、SP-1200は制約がそのまま残って個性になった。音を手に入れる代わりに作業の流れを差し出す取引ですね。
⑤ 復刻版で実際に変わった部分 🔌
FilteredとUnfilteredが別々に書かれているのが見えると思います。オリジナルにはなかった列です。
ここからは復刻版だけの話。買う前はあまり期待していなかったんですが、1年使ってみるとこの部分が思ったより大きかったです。
🔹 保存がSDカードになりました
オリジナルは3.5インチのフロッピーでした。復刻版はSDカードにサンプルとシーケンスを保存して、カードの中でフォルダを作って名前を変えて消すところまで本体の前面でできます。パソコンを経由せずに整理できる点は、使っていると思ったより効いてきます。
🔹 フィルター出力とノンフィルター出力が別々にあります
ここがいちばんありがたかった部分です。チャンネルごとに、フィルターを通した出力と通していない出力が別々に出ています。 オリジナルはチャンネル出力が1セットしかなくて、これを選べませんでした。
つまり1番チャンネルひとつ取っても、ジャックが2つあるわけです。フィルターのかかった音が欲しければフィルター出力から、素の音が欲しければノンフィルター出力から受ければいい。フィルターの感じが気に入らない日は8チャンネル全部をノンフィルター側から受けてもいいし、逆に特定のチャンネルだけ通すこともできます。チャンネルごとに音の性格を選んで盛る感覚ですね。
🔹 ただしフィルター側はチャンネルごとに性格が違います
フィルター出力から受けるときの話ですが、8チャンネルが同じフィルターを使っているわけではありません。
・1〜2番:可変。背面のスライダーでカットオフとレゾナンスを調整
・3〜4番:低めのカットオフで固定
・5〜6番:高めのカットオフで固定
・7〜8番:フィルターを通らない
MIX OUTは8チャンネルをまとめるだけで、それ自体はフィルターをかけません。ただ1〜2番はフィルターを通った信号が入るので、ミックスの中でひときわ暗く小さく聴こえます。最初は故障かと思いました。
🔹 カットオフとレゾナンスを触れます
1〜2番チャンネルに限って、背面のスライダー4本でカットオフとレゾナンスを調整します。チャンネルあたり2本ずつですね。
クラシックなSP-1200の音が欲しいなら、レゾナンスを完全に左まで下げて、周波数を真ん中あたりに置けば大丈夫です。そこから外すとオリジナルでは出せなかった音が出てきて、これがなかなか面白い。スライダーはわざと固く作ってあるので、作業中に不意に動くことはありませんでした。
📌 ちなみにファームウェアが一定以上なら、TUNE/MIX/MULTIボタンを押しながら電源を入れて、1〜2番チャンネルのフィルターエンベロープ自体を切ることもできます。画面に「Filter Envs Off」と出れば適用されています。
⑥ 1年経った今、こう使っています 🤔
まとめるとこうなります。
この機械は曲を仕上げる道具ではありません。 少なくとも私の作り方では、ですが。トラックという概念がなくてチャンネルが8本しかないもので曲をひとつ最後まで引っ張るには、引き受けるものが多すぎます。
代わりに音を作る道具としては代わりが利きません。 ドラムでもループでも、ここを一度通して戻すと、他のやり方ではなかなか出ない質感が乗ります。私は最近そう使っています。ここで音を作って、組み立ては別の場所でやる。
買うかどうか迷っているなら、質問はひとつで足ります。その音が自分にどうしても必要か。 必要なら代わりは見当たりませんし、そこまでではないなら、わざわざこの不便さを買う理由もありません。
⑦ Q&A 💬
Q. プラグインでは本当に無理ですか?
方向はつかめます。ビットクラッシャーにローパスをかけてサチュレーションを少し足すのが基本のレシピで、12ビットサンプラー系のプラグインもいくつもあります。趣味であの感じを真似るには十分です。ただ、ピッチを上げて下げる過程まで含めて比べてみると、崩れ方が違うというのが私の結論です。
Q. 20秒で実際に何ができますか?
2.5秒のブロック8つに分けて、チャンネルに割り振る構造です。ドラムのワンショット中心で組めば思ったより持ちます。ループを丸ごと入れようとするとすぐ底をつきます。オリジナルが10秒だったことを考えれば倍に増えたわけですが、それでも計画を立ててから入る必要のある量です。
Q. オリジナルと復刻版で音は同じですか?
オリジナルのアナログフィルターチップは今は生産されていないので、後継チップを新しく作って入れています。設計者本人が関わっていて、私は違いを感じません。ただオリジナルを長く使ってきた方の中には、細かい差を指摘する人もいます。アナログ部品は同じ規格でも個体ごとに少しずつ違うので、その程度の差として受け止めています。
Q. 最初のサンプラーとして買う価値はありますか?
止めておいたほうがいいと思います。これは目的がはっきりしている人が買う2台目、3台目の機械です。サンプリングとシーケンスをこれから覚えるなら、もっと窮屈でない選択肢がたくさんあります。
今日の内容を一行に圧縮するとこうなります。
「曲を仕上げてくれる機械ではなく、音を作ってくれる機械です。その一点が必要なら代わりがありません。」
この機械を使っている方はいますか? チャンネルの割り振りをどう組んでいるか、コメントで教えてください。
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