MPC Live 2でお気に入りのVSTシンセを鳴らしたいのに、インストールする方法が見当たらない。そんな経験はありませんか。
MPCはスタンドアロンで動く箱ですが、その分サードパーティ製のVSTプラグインをそのまま読み込むことができません。プラグインを使うにはパソコンにつないでコントローラーモードにする必要があり、電源を入れたらすぐ叩けるMPCらしい身軽さが失われてしまいます。
今日はその制約を回避する方法を紹介します。外部音源をオートサンプラーでサンプリングして、Live 2本体に丸ごと持ち込むやり方です。ついでに、この方法で必ず出てくる「音が硬くなる」問題についても、むしろヒップホップには都合がいいという話をします。
💡 今日の要点3行
1. MPCはスタンドアロンではサードパーティVSTを読み込めないが、オートサンプラー機能を使えば外部音源をサンプルとしてLive 2に持ち込める
2. サンプリングした音は本物のVSTより音色の変化が硬くなる — 特にピアノで顕著
3. その硬さは弱点ではなく、ヒップホップのサンプリング文化そのものの質感に近い
① なぜMPCは外部VSTをそのまま使えないのか 🔌
MPCのスタンドアロンモードで動くのは、AIRが作った純正の音源とエフェクトだけです。サードパーティのVSTプラグインを本体だけで直接読み込むことはできません。
パソコンとつないでMPC3デスクトップソフトウェアをコントローラーモードで使えば、スキャンされたVSTプラグインをそのまま鳴らすことができます。ただしこれはパソコンが常に必要ということでもあります。バッグひとつでLive 2だけ持ち出して作業する、あの身軽さは失われます。
② オートサンプラーで外部音源を取り込む手順 🎹
そこで使うのがパソコン版のMPC3デスクトップソフトウェアです。MPCハードウェアを買うと無料で付いてくるソフトなので、追加の出費なしに使えます。ここではできるだけ細かく、実際にやる順番のまま書いておきます。
🔹 手順1 — トラックに外部VSTを直接立ち上げる
MPC3デスクトップで新規トラックを作り、トラックタイプをPLUGINに変更します。Trackメニュー(またはトラック名の横のプラグインアイコン)から鳴らしたい外部VST音源を選んで読み込みます。以前のバージョンのように別の受け皿プラグインを経由する必要はなく、このトラックがそのままオートサンプラーの対象になります。読み込んだら実際に鍵盤を弾いて、音がちゃんと鳴るか、プリセットが狙った音色になっているかをここで確認しておきます。
🔹 手順2 — オートサンプラー画面を開いて録音元を指定する
そのトラックを選んだ状態で、サンプル一覧の上部にあるキーボードのアイコン(AUTOSAMPLER)を押すと専用画面が開きます。まずRECORD FROMの項目で、今選んでいるVSTトラックの出力を録音元に指定します。ここを間違えると無音や別トラックの音を録ってしまうので、最初に必ず確認します。
🔹 手順3 — Note Range(録音する音域)を決める
MIN NOTEとMAX NOTEで、実際に録音する鍵盤の範囲を指定します。88鍵すべてを律儀に録る必要はなく、曲で実際に使う音域だけに絞るのが基本です。ピアノなら中央から上下2〜3オクターブ、ベースなら低音側だけ、というように音源の用途に合わせて範囲を狭めると、この後の作業時間がかなり短くなります。範囲の外側の鍵盤まで鳴らしたい場合は、Extend Min/Max Notesを有効にすると、録った端のサンプルをチューニングで引き伸ばして音域外までカバーしてくれます。
🔹 手順4 — Note Stride(何鍵ごとに録るか)を決める
Note Strideは、実際に1音ずつ録音する間隔を半音単位で指定する項目です。1にすると全鍵クロマチックで録音するので一番自然ですが、時間もサンプル数も一番かかります。2や3にすると、間の鍵盤はMPC側のピッチチューニングで補って音を伸び縮みさせるので、時間は短縮できますが、そのぶん本編の③で説明する「ピッチシフトによる硬さ」が強く出ます。とりあえず自然な音を優先するならストライドは1〜2、多少の硬さを許容して時短するなら3以上、という感覚で選ぶといいです。
🔹 手順5 — Velocity Layers(強弱の段階数)を決める
1〜4の範囲で、弱いタッチと強いタッチをそれぞれ何段階録るかを指定します。段階を増やすほど強弱による音色変化が自然になりますが、その分録音回数も倍々に増えます。ピアノのように強弱の変化が命の音源なら3〜4層、パッド系やベースのようにあまり強弱で音色が変わらない音源なら1〜2層で十分です。
🔹 手順6 — Sampling/Loopingの設定を決める
Note Lengthで1音あたり何秒鳴らして録音するかを、Enable Loopingでサステイン部分をループさせるかどうかを、Tailでリリース(音が消えていく余韻)をどれだけ録り足すかを指定します。ピアノやパッドのように余韻が長い音源はTailを長めに、パーカッション系は短めで問題ありません。Base Nameの欄には、あとでファイルを見分けやすいよう音源名などを入れておきます。
🔹 手順7 — Auto Trim StartとMake current programを確認して実行する
Auto Trim Startを有効にすると、各サンプルの先頭にある無音部分を自動でカットしてくれるので、発音のタイミングが揃いやすくなります。Make current programにチェックを入れておくと、録音が終わった時点でそのままエディット中のプログラムとして開いてくれるので、あとの作業がスムーズです。設定がひと通り終わったら実行ボタンを押すと、あとは自動で1音ずつ順番に鳴らして録音してくれます。音域が広く、レイヤー数が多いほど時間はかかりますが、放っておけば終わるので他の作業をしながら待つのが現実的です。
🔹 手順8 — キーグループプログラムが自動で出来上がる
サンプリングが終わると、音域ごとにサンプルが自動でマッピングされたキーグループプログラム(鍵盤の範囲ごとに別々のサンプルを割り当てて演奏できるようにした形式)が出来上がります。
🔹 手順9 — PROGRAM EDITで仕上げる
このままでも鳴らせますが、いくつか手を入れると完成度が上がります。GLOBALのPolyphonyをMonoかPolyか用途に合わせて選び、ENVELOPESのENV:AMPでReleaseを少し足すと、音が切れる瞬間の「プツッ」というクリックノイズが軽減されます。さらに余裕があれば、ENV:FILTERとVelocity Modulation:Cutoffを使って、強く弾くほどフィルターが開くように設定すると、元のVSTが持っていたベロシティによる音色変化に近い挙動を後付けで再現できます。
🔹 手順10 — 保存してLive 2本体に転送する
編集が終わったらMAIN画面の鉛筆アイコンからSAVE CURRENT PROGRAMを選んで保存します。あとはこのプログラムとサンプル一式をUSBメモリやSDカード経由でLive 2にコピーすれば、パソコンなしでそのまま演奏できます。元の音がどんなVSTだったかは関係なく、Live 2からすればただのサンプルです。スタンドアロンでもコントローラーモードでも同じように使える、完全に持ち運び可能な形になります。
③ なぜ音が硬くなるのか 🧊
ここからが本題です。この方法で作った音は、元のVSTよりどうしても硬く、機械的に聞こえます。
本物のVST音源、特にピアノは、鍵盤を押す強さで音色そのものが変わります。強く弾けば倍音が増えて硬い音に、弱く弾けば柔らかい音に。さらにペダルを踏めば他の弦まで共鳴して音が滲みます。オートサンプラーはベロシティレイヤーを何段階か録ることでこの変化を近似しますが、実際の連続的な変化には及びません。
もうひとつの問題はピッチシフトです。②で触れたNote Strideを1より大きくすると、間の鍵盤は録音せず、近くのサンプルをチューニングで伸び縮みさせて埋めることになります。本来の音域から遠く離れた鍵盤に割り当てるほど、低い方に伸ばせば間延びした音、高い方に伸ばせばキンキンした音になる。これがいわゆる「サンプラーっぽい」硬さの正体です。
④ その硬さが、むしろヒップホップに合う理由 🎧
ここで発想を変えてみます。この硬さは、直そうとするより活かした方がいい場合があります。
ヒップホップという文化は、そもそもレコードから切り出したサンプルを、限られた音質のサンプラーで鳴らすところから始まりました。生演奏の滑らかな強弱ではなく、同じ音色が繰り返し鳴る、あの均一な質感自体がジャンルの骨格になっています。1つのフレーズを何十回もループさせても飽きさせない、あの独特の催眠感は、むしろ音色が変化しなさすぎるくらいの安定感から生まれています。
生のピアニストが弾いたような滑らかな強弱表現は、聴く分には美しいのですが、ビートの一部として何十回もループさせると情報量が多すぎて疲れることがあります。逆にオートサンプラーで作った、多少硬くて均一な音色は、バックで繰り返し鳴らしても耳に残りにくく、ループに向いています。往年のソウルサンプルがどこか粒立って聞こえるのも、似たような理由です。
⑤ 硬さを活かすちょっとしたコツ 🛠️
🔹 レイヤー数はあえて絞る
ベロシティレイヤーを増やすほど自然になりますが、あえて1〜2レイヤーに絞ると、より「サンプラーらしい」均一な質感になります。
🔹 マッピングする音域を狭くする
1つのサンプルを広い音域に貼り付けるほどピッチシフトの歪みが強く出ます。逆にこれを狙って、あえて1オクターブだけ録って残りを引き伸ばすと、もっと粒立った音になります。
🔹 軽くローファイ処理を足す
ビットクラッシャーやローパスフィルターを薄くかけると、サンプラー特有の質感がさらに強調されます。往年の名機が持っていた制約を、あとから意図的に足す形です。
⑥ Q&A 💬
Q. どんなVSTでもこの方法は使えますか?
A. 音を出すインストゥルメントであれば基本的に使えます。ただしVST3の一部でMPC 2ソフトウェア側のスキャンにうまく引っかからないケースが報告されているので、まずはプラグイン一覧に正常に表示されるか確認してください。
Q. オートサンプラーはどれくらい時間がかかりますか?
A. 音域とレイヤー数に比例します。音域を広く、レイヤーを多く取るほど長くなるので、他の作業をしながらバックグラウンドで走らせておくのが現実的です。
Q. フィルターやエンベロープの設定も一緒に持ち込めますか?
A. いいえ、持ち込めるのは鳴らした音そのものだけです。フィルターやエンベロープはMPC側のキーグループプログラムで改めて設定し直す必要があります。
今日の内容を一行に圧縮するとこうなります。
「サンプリングで音が硬くなるのは弱点ではなく、ヒップホップというジャンルが最初から持っていた質感そのものです。」
外部音源をMPCに取り込んで使ったことがある方はいますか? どんな音源を持ち込んだか、コメントで教えてください。
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