曲をひとつ作り終えて、再生しながらふと手が止まることがあります。これ、どこかで聴いた気がする。コード進行を確かめてもよくある四つだし、メロディを盗んだ覚えもない。それでもモヤモヤが消えません。
こういうとき検索すると「四小節までは大丈夫」「八小節を超えるとアウト」みたいな話が出てきます。でも今はそんな基準、どこにもありません。裁判所が実際に見ているのは別のところです。
今日はその基準を整理したうえで、実際の事件17件を、結果と理由まで付けて並べます。 事件ごとに元の曲と指摘された曲を並べて貼ってあるので、聴き比べて自分で判断してみてください。読むだけだと人の結論をなぞることになりますが、耳で聴くと自分の物差しができます。
先に断っておきます。私は弁護士ではないので、この記事は法律相談ではありません。公開されている判決と報道をまとめた読みものとして見てください。
💡 今日の要点3行
1. 著作権が守るのはアイデアではなく表現 — コード進行・リズム・ジャンル・雰囲気は原則として保護の対象外
2. 裁判所が見るのは二つ。相手の曲に触れられたか(依拠性)、重なった部分が保護される表現か(実質的類似性)
3. 裁判までいかずクレジットを分けて終わらせるケースのほうが、現場では実は多い
① パクリと著作権侵害は別の話 ⚖️
同じ言葉のように使いますが、この二つは違います。
パクリは、他人のものを自分のものとして出すという意味です。モラルと評判の問題で、ネットで「これパクリじゃない?」と言うときのあのパクリです。法律に定義が書いてある言葉ではありません。
著作権侵害のほうは、法律が決めた条件に引っかかるかどうかを見ます。条件に合わなければどれだけ似ていても侵害ではないし、逆に盗むつもりがなくても条件に合えば侵害です。
だから「誰が聴いても似てるのに裁判所はセーフと言った」ということがよく起きます。測っている物差しがそもそも違うからです。これから見る事件の多くが、このズレから出てきます。
② 法律が守るのは表現であってアイデアではない 🧱
著作権のいちばん基本になる考え方です。アイデアは誰でも使えて、それを具体的な形にした表現だけを守ります。
音楽に当てはめるとこう分かれます。
🔹 守られにくいもの
コード進行、リズムパターン、テンポ、スケール、ジャンル、楽器編成、全体の雰囲気。このあたりは音楽を作る材料であり文法です。誰かが独占したら、次の人が曲を作れなくなります。
🔹 守られる側に近いもの
具体的なメロディライン、歌詞、その曲ならではの音の置き方。材料ではなく、材料を組み合わせて生み出したものです。
この区別が大事な理由があります。私たちが「似てる」と感じるものの多くが、左側から来ているからです。C-G-Am-Fが同じだから似て聴こえる、八分で刻んだベースが同じだから似て聴こえる。ところがその左側は、法廷ではたいてい武器になりません。
📌 ひとつだけ補足を
「原則として」と書いたのには理由があります。かなり珍しい進行だったり、短い要素が特定の形で組み合わさってそれ自体が独創的だと認められることも、ないわけではありません。ただそれは例外で、例外を根拠に自分の曲を心配する必要はふつうありません。
③ 二つの関門 — 依拠性と実質的類似性 🚪
侵害が認められるには、訴えた側が二つを通さないといけません。
🔹 ひとつめ、依拠性
相手の曲を見て作ったかどうかです。直接の証拠はまず出てこないので、たいてい触れられたかどうかで判断します。その曲が広く知られていたか、二人が同じ場にいたか、聴いたことがあると本人が認めているか。
最高裁が1978年にこの原則をはっきり示しています。既存の著作物と同じものができても、それが既存の著作物に依拠して作られたのでなければ複製にあたらず、侵害の問題は起きない。たまたま同じになったものは侵害ではない、ということです。
🔹 ふたつめ、実質的類似性
重なった部分が②で見た守られる表現なのかを見ます。二曲の共通点がコード進行とリズムだけなら、似てはいても「実質的」ではないという結論になります。
二つとも通ってはじめて侵害です。そして実際の事件で勝ち負けを決めたのは、ほとんどが二つめでした。
④ 侵害が認められた事件 🔴
🔹 事件1 · 「My Sweet Lord」 — ジョージ・ハリスン · アメリカ · 1976
シフォンズの「He's So Fine」の権利者が1971年に訴えました。1976年8月、ニューヨーク南部地区裁判所のリチャード・オーウェン判事は、ハリスンが自分でも気づかないうちに写したと見ました。気づいていなくても侵害は侵害、というわけです。ハリスンはその曲を以前に聴いたことがあると認めていました。賠償額は1981年2月に58万7千ドルと決まりました。
▶ 元の曲 · The Chiffons「He's So Fine」
▶ 指摘された曲 · George Harrison「My Sweet Lord」
🔹 事件2 · 「Love Is a Wonderful Thing」 — マイケル・ボルトン · アメリカ · 1994
ボルトンの1991年の曲が、アイズレー・ブラザーズの1964年の同名曲を写したかどうかが争点でした。1994年、陪審は侵害を認めて540万ドルを命じます。当時の音楽盗作事件でいちばん大きい額でした。2000年に第9巡回区控訴裁判所もそのまま維持します。ボルトンがその曲に触れられたし実際に似ている、として、共作者ともども気づかないうちに写したと見たわけです。
▶ 元の曲 · The Isley Brothers「Love Is a Wonderful Thing」
▶ 指摘された曲 · Michael Bolton「Love Is a Wonderful Thing」
🔹 事件3 · 「Blurred Lines」 — ロビン・シック · ファレル・ウィリアムス · アメリカ · 2018
2013年の曲がマーヴィン・ゲイの1977年「Got to Give It Up」を写したかどうかが争点でした。2015年に陪審が侵害を認め、2018年3月に第9巡回区控訴裁判所が2対1で維持します。賠償は実損害およそ318万ドルを含めて530万ドル規模。遺族側はこの先入ってくる作曲・出版収入の50パーセントをロイヤリティで受け取ることになりました。共同被告だったラッパーのT.I.への賠償は取り消されています。
この事件がいつまでも引き合いに出されるのは、反対意見のせいです。グエン判事は二曲がメロディ・ハーモニー・リズムのどれをとっても客観的に似ていないと見て、多数意見は結果的に音楽のスタイルに著作権を認めたようなものだと書きました。
▶ 元の曲 · Marvin Gaye「Got to Give It Up」
▶ 指摘された曲 · Robin Thicke「Blurred Lines」
🔹 事件4 · 記念樹事件 — 日本 · 2003年確定
1966年の小林亜星「どこまでも行こう」と、1992年の服部克久「記念樹」がぶつかりました。前者はタイヤ会社のCMソングとして広く歌われた曲、後者はフジテレビ『あっぱれさんま大先生』のエンディングテーマです。1998年に提訴、一審は請求を認めませんでした。
ところが2002年9月、東京高裁がひっくり返します。二曲には表現上の本質的な特徴の同一性があり、これだけの類似がたまたま生まれたと考えるのは不自然だ、という判断でした。およそ940万円の賠償が命じられ、2003年に最高裁が上告を受理しなかったことでそのまま確定します。
▶ 元の曲 · 小林亜星「どこまでも行こう」
▶ 指摘された曲 · 服部克久「記念樹」
⑤ 侵害ではないとされた事件 🟢
🔹 事件5 · 「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」 — 日本 · 1978
1963年の鈴木道明の曲が、アメリカの「Boulevard of Broken Dreams」に依拠したものかどうかが争点でした。最高裁は1978年9月、依拠して作ったのでなければ複製ではないという原則を立てたうえで、侵害を認めませんでした。さきほど見た依拠性の考え方は、ここから来ています。
▶ 元の曲 ·「Boulevard of Broken Dreams」
▶ 指摘された曲 · 石原裕次郎「ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー」
🔹 事件6 · 「Stairway to Heaven」 — レッド・ツェッペリン · アメリカ · 2020年確定
スピリットの1968年の曲「Taurus」の出だしを持っていった、という訴えでした。2014年に提訴、2016年に陪審が侵害ではないと判断し、2020年3月に第9巡回区控訴裁判所の大法廷がこれを維持します。同じ年の10月に連邦最高裁が上告を受理せず、6年の争いが終わりました。
▶ 元の曲 · Spirit「Taurus」
▶ 指摘された曲 · Led Zeppelin「Stairway to Heaven」
🔹 事件7 · 「Dark Horse」 — ケイティ・ペリー · アメリカ · 2022
クリスチャンヒップホップのフレイム(マーカス・グレイ)が、自分の曲「Joyful Noise」の繰り返しの音型を持っていかれたとして2014年に訴え、2019年の陪審は280万ドルの賠償を認めました。ところが一審の裁判所がその評決を取り消し、2022年3月に第9巡回区控訴裁判所がそれを確定させます。理由はひとつでした。問題の音型が著作権で守るほど独創的ではないというものです。
▶ 元の曲 · Flame「Joyful Noise」
▶ 指摘された曲 · Katy Perry「Dark Horse」
🔹 事件8 · 「Shape of You」 — エド・シーラン · イギリス · 2022
サミ・チョクリが、自分の2015年の曲「Oh Why」のフックを持っていかれたと主張しました。2022年4月、イギリス高等法院は、シーランが意図的にも無意識にも写してはいないと見ます。問題のフックが昔から使われてきたマイナーペンタトニックのパターンだという点が、根拠のひとつでした。シーラン側は訴訟費用の一部としておよそ91万ポンドを先に受け取っています。
▶ 元の曲 · Sami Switch「Oh Why」
▶ 指摘された曲 · Ed Sheeran「Shape of You」
🔹 事件9 · 「Thinking Out Loud」 — エド・シーラン · アメリカ · 2023
マーヴィン・ゲイの「Let's Get It On」を写したかどうかが争われ、2023年5月にニューヨークの陪審が侵害ではないと評決しました。関連する事件で担当判事は、問題になったコード進行とハーモニックリズムがポップスにありふれた材料だから保護の対象にならないと言い切り、控訴審も同じ結論を出しています。
▶ 元の曲 · Marvin Gaye「Let's Get It On」
▶ 指摘された曲 · Ed Sheeran「Thinking Out Loud」
🔹 事件10 · 「Levitating」 — デュア・リパ · アメリカ · 2025
作曲家のL・ラッセル・ブラウンとサンディ・リンザーが、自分たちの1979年と1980年の曲を持っていかれたとして2022年に訴えました。2025年3月、担当判事は実質的類似性がないとして訴えを退けます。判決文にこんな一節があります。原告が持ち出した「ディスコっぽいポップ」という音楽スタイルと、「楽しませて踊らせる」という機能は、単独でも組み合わせでも保護の対象になりえないというものです。
▶ 元の曲 · Cory Daye「Wiggle and Giggle All Night」
▶ 指摘された曲 · Dua Lipa「Levitating」
🔹 事件11 · 「Someday」 — パク・ジニョン · 韓国 · 2015
作曲家のキム・シニルが、2005年に歌手アッシュへ書いた「To My Man(私の彼に)」のサビを持っていかれたとして訴えました。一審も二審もキム側の言い分を認め、それぞれ2100万ウォン、5690万ウォンを支払うよう命じます。
流れが変わったのは2015年8月の大法院でした。原告の曲のそのサビが先に出ている複数の曲と似ていて、創作性を認めるのは難しいという趣旨で、原審を破棄して差し戻します。差し戻し後の裁判では和解の勧告がそのまま確定し、訴訟費用はお互い自分持ちという形で終わりました。
▶ 元の曲 · アッシュ「To My Man」
▶ 指摘された曲 · IU「Someday」
⑥ 法廷の外でクレジットにして収めた事件 🤝
現場ではこちらのほうがずっと多いです。判決まで持っていくとお金も時間もかかりすぎるので、似ているものは似ていると認めて、クレジットとロイヤリティを分ける形で収めます。
🔹 事件12 · 「Ice Ice Baby」 — ヴァニラ・アイス · 1990
クイーンとデヴィッド・ボウイの「Under Pressure」のベースラインを、クレジットなしでサンプリングしました。訴訟になる前に話し合いで終わり、クイーンとボウイが作曲クレジットに入ります。当の本人がインタビューのたびに言うことを変えたせいで、条件がどうだったのかは今も話が食い違ったままです。
▶ 元の曲 · Queen & David Bowie「Under Pressure」
▶ 指摘された曲 · Vanilla Ice「Ice Ice Baby」
🔹 事件13 · 「Bitter Sweet Symphony」 — ザ・ヴァーヴ · 1997
ローリング・ストーンズの「The Last Time」を、アンドリュー・オールダム・オーケストラが編曲した版から短く借りました。五音だけ使う条件でロイヤリティを50パーセント渡す約束だったのに、ストーンズ側のマネージャーが約束より多く使ったと言い出します。結局は法廷まで行かずに話がつきましたが、出版権とロイヤリティがまるごと相手の会社に移り、ジャガーとリチャーズがクレジットに入りました。
ひっくり返ったのは20年後です。2019年、ジャガーとリチャーズが権利と自分たちの取り分をリチャード・アシュクロフトに返し、クレジットからも名前を外しました。それまでアシュクロフトがこの曲の出版で受け取った額は、千ドルほどだったといいます。
▶ 元の曲 · Andrew Oldham Orchestra「The Last Time」
▶ 指摘された曲 · The Verve「Bitter Sweet Symphony」
🔹 事件14 · 「Creep」 — レディオヘッド · 1990年代
ホリーズの「The Air That I Breathe」とコード進行もメロディも似ている、という声が上がりました。レディオヘッドが参考にしたことを最初から隠していなかったので、もめることもなく話し合いで収まり、アルバート・ハモンドとマイク・ヘイゼルウッドが共作クレジットに入ります。ハモンドは、レディオヘッドが正直に認めたからロイヤリティは少しだけもらった、と話しています。
▶ 元の曲 · The Hollies「The Air That I Breathe」
▶ 指摘された曲 · Radiohead「Creep」
🔹 事件15 · 「Stay With Me」 — サム・スミス · 2015
トム・ペティの1989年の曲「I Won't Back Down」に似ていると、ペティ側の出版社のほうから先に伝えてきました。スミス側は似ていることを認め、ペティとジェフ・リンに作曲クレジットとロイヤリティを12.5パーセントずつ渡すことで話をつけます。ペティは悪気があったわけないだろう、こういうことは起きるものだと言い、スミスに直接手紙まで送りました。
▶ 元の曲 · Tom Petty「I Won't Back Down」
▶ 指摘された曲 · Sam Smith「Stay With Me」
🔹 事件16 · 「good 4 u」 — オリヴィア・ロドリゴ · 2021
パラモアの「Misery Business」に似ているという反応が出ると、訴訟にもならないうちにヘイリー・ウィリアムスとジョシュ・ファロを作曲クレジットに後から加えました。
▶ 元の曲 · Paramore「Misery Business」
▶ 指摘された曲 · Olivia Rodrigo「good 4 u」
🔹 事件17 · 「deja vu」 — オリヴィア・ロドリゴ · 2021
同じアルバムの別の曲にもテイラー・スウィフトの「Cruel Summer」を参考にしたところがあり、スウィフトを含む三人を共作者に加えています。ブリッジで影響を受けたと、ロドリゴ本人が話しました。
▶ 元の曲 · Taylor Swift「Cruel Summer」
▶ 指摘された曲 · Olivia Rodrigo「deja vu」
💡 このやり方が増えている理由
裁判にすると、勝っても損をします。「Shape of You」はシーランが勝ちましたが、それでも訴訟費用は90万ポンドを超えました。先にクレジットを分けておけば、その費用も数年の時間も消えます。ただ似ていることを認めて入る形になるので、これが当たり前になるのを心配する声も出ています。
⑦ 17件を並べてみると 🔍
裁判所の判断が出た11件を一か所に並べると、分かれ目がかなりはっきりします。
🔹 認められた側の共通点
重なったのがメロディでした。「My Sweet Lord」もマイケル・ボルトンの事件も記念樹事件も、問題になったのは歌える旋律です。そして三件とも、被告が元の曲に触れられたことが認められています。
🔹 認められなかった側の共通点
重なったのが材料だったか、あるいは元の曲のその部分からして独創的ではないと見られました。コード進行とハーモニックリズム(「Thinking Out Loud」)、ありふれた下行音階とジャンルの感じ(「Levitating」)、広く使われたペンタトニックのパターン(「Shape of You」)、繰り返しの短い音型(「Dark Horse」)、先行曲と似たサビ(「Someday」)。
🔹 例外がひとつ
「Blurred Lines」だけ毛色が違います。メロディではなく全体の感じを認めた事件なので、今でも他の判決で反対の例として引っ張り出されます。陪審裁判だったという点を、みんなが指摘します。陪審員は音楽の専門家ではなく普通の市民で、二曲を並べて聴けば「感じが同じ」という印象が先に来ます。ほかの事件が判事の法律判断でふるいにかけられたのとは対照的です。
🔹 そして国が違っても
アメリカもイギリスも日本も韓国も、結局は同じところを見ます。その部分が誰でも使う材料なのか、それともその曲だけの表現なのか。 法体系が違うのに、問いはひとつに集まります。
⑧ よくある誤解3つ ❌
🔹 「八小節までなら大丈夫」
今はそんな基準はありません。ただ、この話がどこから来たかは押さえておく価値があります。韓国では1997年まで公演倫理委員会が盗作の審議をしていて、二小節(八小節)以上同じパターンなら、あるいは音程が違っても拍の割り方が同じなら盗作、といった基準を使っていました。その審議機関がなくなって判断は裁判所に移りましたが、裁判所は小節を数えません。短くてもそこが曲の核なら問題になるし、長くてもありふれた材料なら問題になりません。
🔹 「コード進行が同じならパクリ」
②で見たとおり、コード進行そのものは守られにくいです。「Thinking Out Loud」と「Levitating」がそれをはっきり確かめてくれました。カノン進行で作られた曲を数えてみればすぐ納得がいきます。ただ、コード進行が同じうえにメロディまで重なると話が変わります。問題になるのはメロディのほうです。
🔹 「サンプリングも同じ基準」
違います。まったく別の話です。ここまで見てきたのは、譜面に書ける作曲が似ているかどうかでした。サンプリングは他人の録音をそのまま持ってくるので、似ているかを問うまでもなく、許可を取ったかどうかがすべてです。「Ice Ice Baby」と「Bitter Sweet Symphony」がこれにあたります。どれだけ短く切って使っても、許可は許可です。
💡 いま起きている争い
2026年7月、ドイツのミュンヘン地方裁判所が、著作権管理団体GEMAがAI音楽サービスのSunoを相手に起こした裁判でGEMA側の言い分を認めました。管理している曲を許可なく学習に使ったことが争点で、賠償額は次の手続きで決まります。曲どうしが似ているかではなく、学習に使ったかを問う場所がもうひとつ増えたわけです。
⑨ Q&A 💬
Q. コード進行が四つとも完全に同じです。大丈夫でしょうか?
A. コード進行だけで侵害が認められた例は、上の17件にはありません。ありふれた進行ならなおさらです。ただ、その上に乗せたメロディが元の曲と重なっていないかは別に確かめておくといいです。
Q. リファレンス曲を流しながら作りました。これって依拠性ですか?
A. 聴いたというだけで侵害にはなりません。依拠性は二つの関門のうちのひとつで、できあがったものが守られる表現を実際に持ってきたかは別に見ます。参考にして作るのは、作曲する人なら誰でもやっていることです。
Q. 知らなかったと言えば逃げられますか?
A. 難しいです。「My Sweet Lord」とマイケル・ボルトンの事件がその例です。どちらも気づかないうちに写したと見られて、それでも侵害は侵害でした。意図は二つの関門のどこにも入っていません。ただ故意が認められると、賠償額が上がる方向に働きます。
Q. 作ったあとで元の曲に似ていると気づきました。どうすれば?
A. 重なっている区間を特定して、そこがメロディなのか伴奏の材料なのかをまず分けてください。伴奏の材料ならたいてい余裕がありますし、メロディが小節単位で重なっているならその部分だけ直せばだいたい解けます。リリース目前の商用音源で判断がつかないなら、専門家に確認したほうが安全です。
Q. AIが作ってくれたメロディなら安全ですか?
A. 安全ではありません。学習データにあった曲と似て出てくることはありますし、それを出した責任は出した人が負います。そもそもAIが作ったものの権利関係は、国ごとにまだ整理されている途中です。
Q. カバーやリミックスは?
A. それはパクリではなく許可の話です。元の曲を元の曲として使うので、国ごとの管理団体とプラットフォームの手続きを踏めば済みます。
Q. たまたま似たことを、どう証明すればいいですか?
A. 「Shape of You」の事件でシーラン側が取った方法が参考になります。問題の部分が昔から広く使われてきたパターンだと示して、自分の曲をどう作ったかを資料で出しました。作業ファイルと日付が残っていると、そこで効いてきます。
⑩ 今日やること ✍️
作りかけの曲がひとつあれば足ります。
1. モヤモヤする区間を4〜8小節で特定する
2. その区間で重なっていると感じる要素を、コード・リズム・メロディ・音色に分けて書き出す
3. コードとリズムだけが重なっているならそこで止める — 上の事件が何度も確かめてくれた場所だ
4. メロディが重なっているなら、その小節の音をひとつずつ比べる。何個が同じ位置に同じ長さであるか数える
5. 半分以上が同じ位置にあるなら、その小節だけ書き直す。始まりの音を変えるかリズムをずらすだけでたいてい足りる
6. プロジェクトファイルを、日付が残る形でバックアップしておく
4番はぜひ手を動かしてみてください。数えてみると「重なってる」という感じが、実は二つ三つの音のせいだったということがよくあります。その二つ三つを動かすだけで、曲の印象は残ったままモヤモヤが消えます。
似ているという感覚と、法律が見る類似は同じものではありません。これが分かると、人の曲を軽々しくパクリと呼ぶことも、自分の曲を根拠なく心配することも減ります。
おわりに
今日の内容を一行に圧縮するとこうです。
「法律が見るのは似ているという感覚ではなく、守られる表現を持ってきたかどうか — コードとリズムは材料で、争いになるのはたいていメロディだ」
17件のなかに、結果が意外だった事件はありましたか? どれだったかコメントで教えてください。
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