2026年9月14日月曜日

コンプをかけたのになぜ変になるのか — アタックとリリースで音の形を決める

コンプレッサーをかけたらスネアの力が抜けた。別の曲では、ボーカルが息をするみたいに大きくなったり小さくなったりする。逆に、オンにしてもオフにしても何が変わったのか分からないトラックもある。この三つ、どれもスレッショルドやレシオの問題ではない可能性が高いです。アタックとリリースが音に合っていないのです。

どれだけ押さえるかはスレッショルドとレシオが決めます。でもいつ押さえ始めて、いつ手を離すかを決めるのはアタックとリリースで、音の印象を実際に変えているのはこちらです。同じ3dB押さえても、アタックが1msか30msかでドラムはまったく別の楽器になります。

① 音には「形」があります 📐

まず、音を一つ拡大して見てみます。スネアを叩くと最初の数ミリ秒にとても大きなピークが飛び出し、そのあと響きがだんだん小さくなっていく。前の尖った部分がトランジェント、後ろの胴体がサステインです。楽器ごとにこの比率が違います。ドラムやピアノはトランジェントが大きくサステインが短い。パッドやストリングスはトランジェントがほとんどなく、サステインが長い。ボーカルは子音がトランジェント、母音がサステインと考えればだいたい合っています。

コンプレッサーはこの形を変える道具です。音量を下げる道具だとよく言われますが、正確には時間によって違う量だけ下げて、形を変える道具。そしてその時間を決めるつまみがアタックとリリースです。

・アタック — 信号がスレッショルドを超えてから、コンプが目標の量まで押さえ切るのにかかる時間
・リリース — 信号がスレッショルドを下回ってから、押さえていたものを完全に戻すまでにかかる時間

どちらも単位はミリ秒です。アタックはだいたい0.1msから100msの間、リリースは10msから数秒まで動きます。

② アタック — トランジェントを通すか通さないか 🥁

アタックの仕事は一つです。トランジェントをどれだけ残すか。

アタックが速い(1〜5ms)と、トランジェントが出た瞬間に押さえられます。ピークが削られるので音は丸くなり、後ろのサステインとの差が縮まって全体が太くなる。その代わり、叩く感じは消えます。スネアにコンプをかけたら力が抜けた、というのはたいていこのケースです。

アタックが遅い(20〜50ms)と、トランジェントは押さえられる前に通り抜けます。コンプが押さえ始める頃にはピークはもう過ぎていて、押さえられるのはそのあとのサステインだけ。結果としてピークとサステインの差がむしろ広がって、より叩いているように聞こえます。ドラムがパンチのある音になるコンプの設定は、ほぼ全部こちらです。

つまりアタックつまみは「どれだけ強く押さえるか」ではなく、「ピークを残すか消すか」を決めるスイッチに近いものです。

🔹 速いアタックが合う場合 — ピークが耳につくとき。ボーカルの子音が飛び出すとき、ベースのスラップが出すぎるとき、リミッターとして使いたいとき

🔹 遅いアタックが合う場合 — 叩く感じを残したいとき。ドラム、ピアノ、アコギのピッキング、それからミックスバス

📌 アタック時間の表記は機種ごとに違います

同じ10msでも、プラグインによって「目標値の63%に達するまでの時間」と定義していたり、「90%まで」と定義していたりします。数字を覚えるより音で覚えるほうが確実です。別のコンプに乗り換えて同じ数字を入れても違って聞こえるのが普通です。

③ リリース — 息をする速さ 🌬️

リリースは、押さえたものをいつ戻すかを決めます。そしてこれが音が動く感じを作ります。

リリースが速い(50ms以下)と、押さえた直後にすぐ戻る。コンプが音に合わせて素早く上下するので、全体が前に出て密度が上がります。ただし低域では問題が出ます。60Hzのサイン波一周期が約17msで、リリースがそのあたりまで短くなるとコンプが波形そのものを追いかけ始めて歪みが出る。ベースにリリースを短くかけすぎるとザラつく理由がこれです。

リリースが遅い(300ms以上)と、一度押さえたあとしばらく押さえたままになります。音は安定して滑らかになる。でも次の音が来るまでに戻らないと、次の音まで一緒に押さえられて音が後ろに引っ込み、小さくなります。スネアのあとに来るハイハットが小さくなるとか、ボーカルの二つ目の単語が最初の単語より小さく聞こえるとか、そういうのがこのケースです。

その間のどこかにポンピングがあります。リリースが曲の拍とずれて、音量が目に見えて大きくなったり小さくなったりする状態。狙ってやれば効果ですが、狙っていなければミスです。ボーカルが「息をする」という言い方はここから来ています。

実務でリリースを探す方法は簡単です。ゲインリダクションメーターを見ながら、次の音が来る直前に針が0へ戻る地点を探します。それより速いとポンピング、遅いと引っ込み。曲のテンポで正解が変わるので、プリセットの数字は参考程度に。

📌 オートリリース

多くのコンプに自動リリース機能があります。大きなピークには速く戻し、持続的な信号にはゆっくり戻す、というふうに勝手に調整してくれる。ボーカルやミックスバスのように信号が常に変わる場所では、だいたい手動より良い結果になります。ドラムのように規則的な音には手動で合わせるほうが正確です。

④ 二つを合わせると四つの性格になります 🧭

アタックとリリースを速い/遅いで分けると、組み合わせは四つ。それぞれ音がまったく違います。

🔹 速いアタック + 速いリリース — ピークを削ってすぐ戻す。密度が高く前に出るが、ザラつくことも。リミッティング、ロックのボーカル、パラレル用に強く押さえるとき

🔹 速いアタック + 遅いリリース — ピークを削って長く押さえる。いちばん滑らかでなめらか。バラードのボーカル、アコギ、目立たない整理

🔹 遅いアタック + 速いリリース — ピークは残して胴体だけ一瞬押さえる。叩く感じがいちばん強い。ドラム、パンチが必要なものすべて

🔹 遅いアタック + 遅いリリース — ピークは残して胴体を長く押さえる。接着剤の役目。ミックスバス、ドラムバス

この四つのうち、自分が欲しい結果がどこにあるかを先に決めてからつまみを握ると、迷う時間が一気に減ります。

⑤ 楽器別の出発点 🎛️

数字は出発点であって正解ではありません。ここから始めて耳で調整してください。

🔹 キック — アタック20〜40ms、リリース50〜150ms。叩く瞬間は通して、響きだけ整える。リリースが長いと次のキックが小さくなる

🔹 スネア — アタック10〜30ms、リリース80〜200ms。キックより少し速いアタック。速すぎると紙を叩く音になる

🔹 ドラムバス — アタック30ms以上、リリース100〜300msかオート。個々のトランジェントは全部残して、全体だけまとめる

🔹 ベース — アタック10〜30ms、リリース100〜200ms。リリースは低域の周期より十分長く。短いと歪む

🔹 ボーカル — アタック5〜15ms、リリース60〜150msかオート。子音は少し通して母音を安定させる。強くかけるなら二台に分けて

🔹 アコギ — アタック15〜30ms、リリース150〜300ms。ピッキングは残して響きを揃える

🔹 ピアノ — アタック20〜40ms、リリース200ms以上。打鍵は残してサステインペダルの区間を揃える

🔹 パッド・ストリングス — アタック30ms以上、リリース300ms以上。トランジェントがないのでアタックはほぼ意味がなく、リリースだけ長めに

🔹 ミックスバス — アタック30ms以上、リリースはオートか300ms前後。1〜2dBだけ。押さえているのが聞こえたら過剰

⑥ 実際につまみを握る順番 🛠️

コンプを開くとつまみが五つ六つありますが、順番を決めておくと速いです。

1. レシオ4:1、アタックとリリースは最速に。 極端から始めないと変化が聞こえません
2. スレッショルドを下げて5〜6dBくらい押さえる。 わざと過剰に。あとで減らします
3. アタックをゆっくり伸ばす。 ある瞬間、トランジェントが「トッ」と飛び出してくる地点があります。そこからもう少し伸ばすか戻すかして、欲しいぶんだけ通します
4. リリースをゆっくり伸ばす。 ゲインリダクションメーターが次の音の直前に0へ戻る地点を探します。ポンピングが消えるところです
5. スレッショルドを戻して、押さえる量を欲しいぶん(ふつう2〜4dB)まで減らす
6. メイクアップゲインで音量を揃えて、オンオフしながら比べる。 音量が違うと大きいほうが必ず良く聞こえるので、必ず揃えてください

3と4で極端から始める理由は、中間値から始めると何が変わっているのか聞こえないからです。速すぎるものと遅すぎるものを両方聴いてから、その間に入っていって初めて基準ができます。

⑦ よくあるミス ⚠️

🔹 アタックをいつも最小にしている。 プリセットにアタックが0近くのものが多くて、そのまま使う人が多いのですが、トランジェントのある楽器ならほぼ全部力が抜けます。ドラムとピアノとギターはアタックを伸ばすところから始めてください。

🔹 リリースを触らない。 アタックより変化が分かりにくいので放置しがちですが、引っ込んだりポンピングしたりする原因の大半はリリースです。メーターの針が戻る速さを一度は必ず確認してください。

🔹 一台で全部やろうとする。 ボーカルを6dB以上押さえたいなら、一台で強くかけるより二台を直列にして3dBずつ押さえるほうがずっと自然です。一台目は速いアタックでピークだけ、二台目は遅いアタックで全体を均す。こうするとどちらも押さえているのが聞こえません。

🔹 音量を揃えずに比べる。 コンプをオンにするとたいてい音が小さくなり、小さくなると悪く聞こえます。メイクアップゲインで揃えてから判断しないと、アタックとリリースが合っているかどうか分かりようがありません。

🔹 数字を別のコンプにそのまま持っていく。 上で書いた通り、アタック10msの定義が機種ごとに違います。音を基準に取り直してください。

⑧ Q&A 💬

Q. アタックとリリースのつまみがないコンプはどう使えばいいですか?

A. つまみがない機種は回路が時間を決めています。だいたいアタックがゆったりで、リリースが信号に合わせて自動で変わるタイプなので、ボーカルやベースのように滑らかに整えたいソースに向いています。ドラムのトランジェントを細かく扱いたいならアタックつまみのあるものを使ってください。

Q. ルックアヘッドはアタックと何が違うんですか?

A. ルックアヘッドはオーディオを数ミリ秒遅らせて、コンプに信号を先に見せる機能です。アタック0でもクリックなしでピークを捕まえられるので、主にリミッターに入っています。ただしトランジェントを残す用途には使えません。先に見て先に押さえるので、ピークはより確実に削られます。

Q. トランジェントシェイパーとコンプ、どちらを使うべきですか?

A. ピークを大きくしたいならトランジェントシェイパー、ピークを扱いつつ全体のダイナミクスも整えたいならコンプです。遅いアタックのコンプでピークを相対的に大きくすることはできますが、絶対的に大きくすることはできません。両方一緒に使うこともよくあります。

Q. アタックを遅くしたらピークがクリップします。

A. 遅いアタックはピークを通すのが目的なので、そのピークが後ろにあるものを叩くわけです。コンプの後ろにリミッターを一つ置くか、コンプの手前でトラックの音量を少し下げてください。ピークを残すのと、ピークが天井に当たるのは別の問題です。

Q. リリースはBPMに合わせるべきですか?

A. サイドチェインのように拍にぴったり合わせてポンピングさせるのが目的なら、計算して合わせるのがいいです。ふつうの整理が目的なら、拍よりソースの音と音の間隔に合わせるのが優先。メーターの針が次の音の直前に戻ればそれで合っています。

⑨ 今日やること ✍️

スネアのトラックが一本あれば十分です。15分。

1. スネアのトラックにコンプを挿して、レシオ4:1、アタックとリリースを最小にします
2. スレッショルドを下げて6dBくらい押さえます。紙を叩くような音を確認します
3. アタックを0から50msまでゆっくり回します。どこで「トッ」と叩く音が戻ってくるか聴きます
4. その位置でリリースを20msから500msまで回します。短すぎるときのザラつきと、長すぎるときの力の抜けた音を両方聴きます
5. メーターが次のスネアの直前に0へ戻るリリースを探します
6. スレッショルドを戻して3dBくらいだけ押さえるようにし、メイクアップで音量を揃えてオンオフしながら比べます

一度この手順を通すと、アタックとリリースがそれぞれ何を変えるのかが体に残ります。それ以降は他の楽器でも同じ順番で探せばいいだけです。

まとめ

コンプで音の性格を決めているのは、どれだけ押さえるかではなくいつ押さえていつ戻すかです。アタックはピークを残すか消すか、リリースは音がどの速さで動くか。

この二つを極端から回してみて、その間で探す習慣さえつけば、プリセットの数字なしでもどんなコンプでも欲しい音が出せます。

#DTM #音楽制作 #宅録 #DTMerと繋がりたい #ミックス #コンプレッサー #アタック #リリース #ダイナミクス #ドラムミックス

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2026年9月13日日曜日

ヘッドホンでは広いのにスマホでは消えるとき — ステレオイメージとミッド/サイド

ヘッドホンで聴くと広くて気持ちいいのに、スマホのスピーカーで鳴らすと何かが抜けている。シンセのパッドが薄くなり、ギターが半分消えて、曲によってはボーカルまで遠くなる。逆に、ヘッドホンで聴いてもただ真ん中に固まっているミックスもあります。全部聞こえるのに、息苦しい。

どちらも同じ問題の裏と表です。左右の広がりをどう作ったか、そしてその広がりがモノラルにまとめられたときどうなるか。これを扱うのがステレオイメージングで、その道具がミッド/サイドです。

① ステレオは「差」から生まれます 🎧

ステレオはスピーカーが二つあるから生まれるのではありません。左と右が違うときに生まれます。二つのチャンネルに完全に同じ音が入っていれば、スピーカーが二つでも真ん中の一点から鳴っているように聞こえる。差が大きくなるほど音は横に広がります。

だからステレオを左と右で見る代わりに、同じ部分と違う部分に分けて見ることができます。この発想は1931年にアラン・ブルムラインが英国特許として出したものです。二本のマイクの信号を足したものと引いたものに分けて扱う方法が、その特許の中にすでに入っていました。いまのDAWのミッド/サイドプラグインは、その90年以上前のアイデアをそのまま使っています。

② ミッドとサイド — 足し算と引き算 ➕➖

計算は単純です。

・ミッド = (左 + 右) — 両方に共通して入っているもの。真ん中の音
・サイド = (左 − 右) — 両方で違っているぶん。横に広がった音

逆に戻すこともできます。ミッドにサイドを足せば左、引けば右が出てくる。つまりL/RとM/Sは同じ情報を別の角度から見たものであって、何かを足したり失ったりするわけではありません。

ここで、この記事でいちばん大事なルールが出てきます。モノラルにまとめるとサイドは消えます。 左と右を足すのがモノラルですが、サイドはその二つの差なので、足した瞬間に0になる。ヘッドホンで広く聞こえていたものがスマホのスピーカーで消えた理由は、まさにこれです。その音はサイドにしか住んでいなかった。

逆にミッドにあるものはモノラルでもそのまま残ります。ボーカル、キック、ベース、スネアのように曲の骨組みになるものを真ん中に置く理由がここにあります。どこで鳴らしても消えないからです。

③ 自分のミックスがどのあたりか測る 📏

勘でやらず、二つの方法で確認します。

🔹 モノボタン — いちばん確実です。マスターにモノスイッチを置いて、しょっちゅう押してみてください。何が小さくなり、何が消えるかがすぐ聞こえます。たいていのDAWのマスターチャンネルか、ユーティリティ系プラグインに付いています。

🔹 コリレーションメーター — 左と右がどれだけ似ているかを −1 から +1 の間で示す道具です。

・+1 — 完全に同じ。モノラル
・0 — 互いに無関係。とても広いが、モノにまとめると3dBほど落ちる
・−1 — 完全に逆。モノにまとめると消える

曲全体はだいたい +0.3 から +0.7 の間に収まっていれば安全です。一瞬0の近くまで下がるのは構いませんが、ずっと0を下回っているとモノで問題が出ます。マイナスによく落ちる区間があるなら、そこに位相の問題があるサインです。

ベクトルスコープという画面もあって、縦に細長ければモノに近く、横に広がっていれば広い。コリレーションメーターを絵にしたものなので、どちらか一方を見ればいいです。

④ 低域は真ん中に置きます 🔻

広がりは帯域ごとに扱いを変える必要があります。原則は低いほど真ん中、高いほど広くです。

低域を真ん中に置く理由は、もともとヴァイナルにありました。左右で違う低音は針を上下に大きく振って飛ばしてしまったんです。だからカッティングエンジニアが低域のサイドを削り落とし、それが慣習になりました。

いまはヴァイナルでなくても同じ理由が残っています。サブウーファーは一つなのでその帯域はどのみちモノで出るし、小さなスピーカーで左右が違う低い音は互いに打ち消し合って力が抜けるし、クラブのシステムもその下はモノでまとめる。広がった低域は得るものがなく、失うものだけがあります。

実務の目安はこのくらいです。100〜150Hz以下はサイドを空ける。 ミッド/サイドEQでサイドチャンネルだけにハイパスをかければ済みます。こうすると低域が固まり、不思議なことに上のほうがより広く感じられる。低域が真ん中にぴたりと居るぶん、相対的にそうなるわけです。

高域は逆です。ハイハット、空気感、リバーブの尾、パッドのきらめき。こういうものは広くても失うものがほとんどなく、広いほど気持ちいい。

⑤ 広げる方法 — 安全なものから 🔀

広がりが足りないときに使える方法を、安全な順に書きます。

🔹 一つ目 — 本当に二回録る。 ギターでもコーラスでも、同じパートを二回演奏して片方を左、片方を右に置く。二つのテイクが微妙に違うので自然な差が生まれ、モノにまとめても消えません。時間はかかりますが結果がいちばん良い。

🔹 二つ目 — パンを使う。 楽器ごとに場所を決めて左右に配置する。いちばん基本で、いちばん安全です。狭く感じるミックスはパンを使っていないというより、全部を少しだけ振ってあるだけの場合が多い。いくつかは思い切って端まで振ってみてください。

🔹 三つ目 — サイドの高域だけ上げる。 ミッド/サイドEQでサイドチャンネルの5kHz以上を1〜2dB上げると、広がった感じが出ます。モノ互換性への影響が小さいので、マスターバスでも使えます。ただし2dBを超えると真ん中が空き始めるので注意。

🔹 四つ目 — ハースディレイは慎重に。 片方のチャンネルを10〜30ミリ秒遅らせると、音がぐっと横に広がります。1949年にヘルムート・ハースが博士論文でまとめた現象で、この程度の遅れだと耳は二つの音として聞かず、先に届いたほうに位置を置く。効果は強力なのですが、モノにまとめるとコムフィルターがかかって音が薄くなり、特定の帯域が抜けます。 個別トラックに少し使うぶんには構いませんが、マスターや大事なパートには使わないでください。

🔹 五つ目 — ステレオワイドナープラグイン。 楽ですが、多くが上で書いたハースや位相の操作で動いています。かける前と後を必ずモノで比べてください。モノで逆に小さくなるなら、そのワイドナーはそのトラックに合っていません。

⑥ ミッド/サイドで整える実践手順 🛠️

ミッド/サイド処理ができるEQかコンプレッサーを一つ開いて、この順番で進めます。

1. サイドにハイパス120Hz。 低域を真ん中に集めます
2. ミッドでボーカルの居場所を確認。 ボーカルがサイドに漏れているなら、リバーブかダブリングが広すぎます。そちらを減らします
3. サイドの高域を少しだけ。 5kHz以上を+1dBほど。空気感が横に広がります
4. ミッドの2〜4kHzを確認。 ここが混み合っているとボーカルとギターがぶつかる場所なので、ギターをサイドに逃がすかパンを広げます
5. モノで確認。 最初と比べて何が消えたかを聴きます

マスタリングではミッドとサイドに別々のコンプレッサーをかけることもあります。ミッドだけ軽く押さえてボーカルとキックを安定させ、サイドは触らずに広がりを残す、というやり方です。ただしこれはミックスがすでにできているときに乗せる最後の仕上げであって、狭いミックスを広くする道具ではありません。

⑦ よくある失敗 ⚠️

🔹 全部を広げる。 すべてのトラックが広いと真ん中が空いて、曲が不安定に聞こえます。広さは対比から生まれる。真ん中が固いからこそ横が広く感じられます。

🔹 マスターにワイドナーをかける。 曲全体を一度に広げると低域まで一緒に広がって、モノで崩れます。広げるならトラック単位で、しかも高域中心に。

🔹 モノを押してみない。 スマホのスピーカー、Bluetoothスピーカー一台、店の天井スピーカー、インスタのリール。いま音楽が鳴っている場所のかなりの部分がモノか、モノに近い環境です。ヘッドホンでしか確認しないと、その環境をまるごと見落とします。

🔹 コリレーションがマイナスなのにそのままにする。 一瞬なら構いませんが、ずっとマイナスならどこかで位相が反転しています。二本のマイクで録ったソースや、位相を使ったエフェクトをまず疑ってください。

🔹 サイドだけ上げてミッドを見ない。 サイドを上げて広くなったと思っても、実はミッドが相対的に小さくなっただけ、という場合が多い。広がりではなくバランスが変わっただけです。

⑧ Q&A 💬

Q. ミッド/サイド処理はどの段階でやりますか?

A. ミックスの最後かマスタリングでやります。個別トラックのパンとダブリングで先に広がりを作り、その結果をミッド/サイドで整える順番です。最初からM/Sプラグインで広げようとすると、たいてい位相の問題しか生まれません。

Q. 低域をモノにすると息苦しくなりませんか?

A. 逆です。低域が真ん中に集まると上のほうが相対的に広く感じられて、曲全体がむしろ開いて聞こえます。息苦しくなるとしたら低域ではなく中低域(150〜300Hz)まで一緒に集めているせいなので、境目を少し下げてみてください。

Q. コリレーションメーターがない場合は?

A. 無料のプラグインがあります。iZotopeのOzone Imagerは無料で、ベクトルスコープと幅の調整が一緒に入っています。Voxengo MSEDも無料で、M/Sエンコードとミッド・サイドそれぞれのゲイン調整、コリレーションメーターまで付いている。この二つがあれば、この記事で扱ったことは全部できるはずです。

🛒 iZotope Ozone Imager — メーカー公式ページ(無料、国内代理店の取り扱いはありません)

🛒 Voxengo MSED — メーカー公式配布ページ(無料)

Q. ボーカルのダブリングを左右に振るとモノでどうなりますか?

A. 二つのテイクが本当に別の録音なら、モノでも生き残ります。問題は一つのテイクをコピーして片方だけ数ミリ秒遅らせた偽のダブリングです。これはハースディレイと同じ原理なので、モノでコムフィルターがかかります。

Q. ヘッドホンとスピーカーで広がりが違って聞こえるのですが、どちらを信じればいいですか?

A. ヘッドホンは広がりを誇張して聞かせ、スピーカーは部屋の影響を受けます。どちらも完全ではないので両方確認しつつ、最後の判断はモノボタンでしてください。モノで崩れなければ、どの環境でも大きく外れません。

⑨ 今日やること ✍️

いま作っている曲を開いて、15分あれば足ります。

1. マスターにコリレーションメーターを一つ挿します。なければOzone Imager(無料)を落としてください
2. 曲を頭から流して、メーターが0を下回る区間がないか見ます。あればその区間でどのトラックがそうなっているか、ソロで探します
3. マスターにM/S EQを挿して、サイドチャンネルにハイパス120Hzを入れます
4. モノボタンを押したまま曲を一度聴きます。消える楽器を書き出します
5. 消えた楽器の中に大事なものがあれば、パンを少し真ん中に寄せるか、ダブリングをやめて本当に二回録ったものに差し替えます
6. モノを解除して、最初と比べます

これだけでも、どこで鳴らしても崩れないミックスになります。広げるのはそのあとです。

まとめ

広いミックスはサイドを大きくして作るのではなく、真ん中を固めて作ります。キックとベースとボーカルが真ん中にぴたりと居れば、その横に置いたものは少し振っただけで広く聞こえる。

そして広がりはヘッドホンではなくモノボタンで確認します。モノで生き残る広がりだけが本当の広がりです。残りはヘッドホンの中にしか存在しない広がりです。

#DTM #音楽制作 #宅録 #DTMerと繋がりたい #ミックス #ステレオイメージ #ミッドサイド #モノ互換 #マスタリング #位相

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2026年9月12日土曜日

巡り巡って最初の場所へ — MPCを6台渡り歩いた記録

始まりは、ただヒップホップが好きだったからです。

好きな盤のクレジットを眺めて、どんな機材で作ったのか調べていくと、結局MPCという名前に何度も行き当たります。あの時代のヒップホップの骨組みを作ったのは、ほとんどこの四角い箱でしたから。だから自分のような人間がここに興味を持つのは、順番というほどのものでもなかったと思います。

そうやって始まって、いま机の上にはMPC Live 2があり、その隣にクロームでカスタムしたMPC1000が置いてあります。その間に3000があって、かつては60も2000もありました。

順番に書くと、3000が最初で、デモの依頼があって1000と2500を少し触り、それから60を買い、2000を経て、Live 2に来て、最後に1000を買いました。最初に人の物としてちょっと触っただけの機械を、何年か経って自分の金で買うことになったわけで、その間に何を学んだのか、いまだによくわかりません。

① 始まりは3000でした 🎛️

いま手元にあるMPC3000。ウッドサイドはあとから付けたものです。

最初にMPCを迎えるとき、60と3000でずいぶん迷いました。当時は二台の中古価格がほぼ同じだったんです。値段が同じなら純粋にどちらを使うかだけで比べればよくて、60には名前の重みがあり、3000には実用性があった。結局3000を選びました。

いまでもこの選択は正しかったと思っています。6台のうち一台だけ残せと言われたら、迷わず3000ですから。

実際に座ってみていちばん良かったのは、音よりも作り方でした。やりたいことが浮かんだとき、それをやるためのボタンがだいたい表に出ている。パッドを叩けばそのまま入って、気に入らなければ消してまた叩く。画面を覗き込んで何かを選んでいる時間より、手を動かしている時間のほうがずっと長い。頭に浮かんだものと実際に音が出るまでの距離が短いこと、それがMPCを使い続けさせた理由でした。いい音がするからというより、考えが冷めないから。

そこに3000ならではの取り分を足すなら、ほとんどフィルターにあります。3000は32ボイスそれぞれに12dB/octのレゾナンス付きローパスがついていて、フィルター用のエンベロープがもう一つ別にあるので、アタックとディケイをフィルターにかけられます。それとVel>Freqという値があるんです。ベロシティでカットオフをどれだけ開くかを0から100で決める項目です。

文字にすると些細に見えますが、これ一つでキットが実質的に増えます。スネア一つにこの値をかけておけば、強く叩いたときと弱く叩いたときで音量だけでなく音そのものが変わるので、わざわざサンプルを何枚も重ねてレイヤーを組む理由がなくなる。少ない材料で遠くまで行ける構造で、使えば使うほど大きく感じます。

3000が本当に良かったのは、ここからもう一歩先の部分です。リズムを打ち込んで聴いてみたら、何か気に入らないことがあるでしょう。それがソースのせいではなく、グルーヴが乗っていないせいの場合。こういうとき3000では、アタックを少し詰めるとかリリースを短くするとかを、メニュー一つ二つで終わらせられます。思いついて、手が伸びて、音が変わるまでがほとんど途切れない。

そこにタイミングシフトで特定の音だけ前後にずらしたり、クオンタイズの値を変えながら探ったりするのが加わります。グルーヴを計算して設計するのではなく、触りながら見つけていく形になるんですが、これができるおかげで、どうにもならなかったビートが急に成立する瞬間がよくありました。

そのうちふと、こう思ったんです。この機械は黒人音楽をやるために生まれてきた物なんだな、と。スペックを誇るために作られたのではなく、人が手で作るリズムをなんとかして生かす方向に設計されているから。

いまは3000で曲を頭から最後まで作ることはほとんどないのに、片付けずにいます。サンプルをここに一度通してから使うことがあるんです。音を作るために電源を入れるのではなく、すでにある音をこちらの色に変えるために入れる、というところです。

ついでに言うと、3000にはVailixiというサードパーティ製のOSがあります。バージョンは3.50で、EPROMを2枚差し替えるだけなのでハンダは要りません。長く残っていたバグが整理されて、メモリの状態を見る画面やサンプルのトリム機能が付くんですが、これを入れておくと30年前の機械なのに、いま座っても窮屈に感じない程度まで来ます。

② 人の物として触った1000と2500 📦

3000を使い込んでいた頃、デモの依頼があって1000と2500を少し触る機会がありました。自分の物ではなかったので長くは付き合えず、そのぶん記憶もぼんやりしています。

特に2500はほとんど印象が残っていません。触ったのがJJOSが出る前だったので、いま人が話している2500とは事実上別物だったはずです。ただ音だけは覚えていて、プラスチックみたいな感触でした。3000のほうにあった厚みがなかった。

1000はこのとき悪くないとは思ったものの、わざわざ買うところまでは行きませんでした。それがあとでひっくり返るとは思っていませんでしたが。

③ それで60を買いました ⚠️

MPC60のディスプレイまわり。この画面で全部やっていました。

3000をちゃんと使えていたのに、最初に選ばなかったほうがずっと引っかかっていました。12ビットのサンプラーで、ヒップホップでよく使われたらしい。その言葉が頭から消えなかったんです。結局何年か経って60を買いました。SP-1200を買ったときとまったく同じ動機です。

ところが電源を入れて座ってみると、最初につまずいたのは音ではなくロード時間でした。

保存が720KBのフロッピーなので、サンプル一つ呼び出すのにかかる時間が、作る流れをそのまま断ち切ってしまいます。一つ呼んで聴いてみて、違うなと思ったら別のを呼ぶ、という当たり前の往復が成立しない。何かを試す前に待つ時間が先に来るから、考えが冷めてしまうんです。

遅いのはある程度覚悟して買ったつもりでした。本当に予想外だったのは、音のほうです。

当時、自分はすでにAKAIのS612を持っていました。1985年に出た12ビットのラック型サンプラーで、12ビットという条件が同じだけに、60に期待していた質感がS612ですでに出ていたんです。だから60の前に座っていても、これがS612より何が良いのかがずっと引っかかって、その答えが最後まで出ませんでした。

しかも60にはフィルターがありません。カットオフもレゾナンスもなく、LFOもなく、エンベロープはアタックとディケイの二つだけのものが一つきり。12ビット40kHzのモノラル録音で、サンプルメモリは768KB、時間にして13.1秒、拡張しても26.2秒です。音を入れたあとで中でいじれるものが、事実上ないわけです。3000で当たり前に使っていたものがここには最初からなかったので、3000の次に60という順番で踏んだのが、自分には不利だった気もします。

12ビットの質感はすでに別のところで出ていて、整えることはできず、呼び出すのは遅い。この三つが重なると、自然と手が伸びなくなりました。結局60は実戦ではほとんど使えませんでした。

④ 売って、値段が三倍になりました 💰

だから売りました。

そしていまの相場を見ると、自分が買ったときより三倍以上に上がっています。買ったときはそんなに高い物ではなかったんです。

最初に60と3000を天秤にかけていた頃は二台の値段がほぼ同じだったことを思うと、少し妙な気分になります。あの頃は同じ線に並べて選んでいた二台なのに、いまは片方だけずっと上に行ってしまっている。音も機能もその間に変わったわけではないのに。

最近ときどきこう思います。使いもしないのに、ただ持っていればよかったんじゃないか、と。

正直に言えば、これは音楽をやる人間の後悔ではなく、物を持っていた人間の後悔です。あの音が忘れられなくてまた買いたいのではなく、売らなければいま何倍になっていたか、という話ですから。それを「あの音が忘れられない」で包んだら嘘になります。

ただ、ヴィンテージの値段がどれも上がるわけではありません。MPC5000のように発売時の価格から大きく下がった機種もあります。名前の重みと実際の需要は、思ったより別々に動く。ちなみにここで言った三倍は、売った値段といま出ている出品を見比べた個人的な体感で、実際の取引価格は状態や改造の有無、地域によって幅が大きいです。機材をそういう基準で買うことはお勧めしません。

⑤ 2000で聴いた音 🔊

60の次が2000でした。

当時使っていたMPC2000。

ここでは少し違うことを学びました。808のキックのキットをこの機械に通したとき、自分が持っている中で、いま出てくる海外のヒップホップの音にいちばん近いものが出たんです。3000や60を通したときとは方向そのものが違いました。そのときふと思いました。ああ、いまトラップをやっている人たちはこれで作業しているんだな、と。

使い勝手も前の二台とは比べものになりません。16ビット44.1kHzでRAMは32MBまで、シーケンサーは64トラック、画面も大きく保存もずっとまし。いちばん売れたモデルなので、いまも出品はよく見かけます。

その代わり、壊れる場所が知られています。画面が暗くなること、パッドのセンサーが死ぬこと、8アウトの拡張を間違えて付けて電源部が飛ぶこと。中古で見るならこの三つは聞いてから買うほうがいいです。

⑥ 舞台に乗せる物が必要でした 🎤

Live 2に移った理由は単純で、ライブでした。

ヴィンテージ機は舞台に上げるには制約が多すぎます。重く、保存メディアが心もとなく、電源事情に敏感なうえ、何かあってもその場でどうにもできない。スタジオでいい音がすることと、舞台で信頼できることは、まったく別の話です。Live 2はバッテリーが入っていて、保存が安全で、中で最後まで行けるので、そこが一度に解決します。

ただ、楽になったぶん、ヴィンテージでできていたことが逆に面倒になった部分もあります。

2000や3000は、パッドのプログラムとシーケンスが別々に動く。キットを一つ選んで載せておけばその状態が機械に残っていて、シーケンスはシーケンスで差し替えればいいので、音を決めておいてパターンだけ次々変えてみる流れが自然に出てくるんです。

Live 2は構造そのものが違う。AKAIが自分で描いている階層図を見ると、ソング、シーケンス、トラック、プログラムの順で、プログラムがいちばん下にあって、トラックがそれを抱えている。そしてそのトラックはシーケンスに属します。以前はキットが機械の状態だったとすれば、いまはトラックの属性になったわけです。そのため別の場所で同じキットを叩いてみようとするとトラックを触り直すことになり、シーケンスを増やすたびにその確認がついてくる。機能が増えた代わりに階層が一つ増えたということで、作る側にとってはこれがけっこう引っかかります。

メニューダイブもむしろ増えました。3000でベロシティフィルターをかけたり、ドラムのアタックとリリースをいじったりするのは数回で終わります。画面が小さく機能が少ないから、欲しいものがだいたい表面の近くに出ているんです。一方Live 2はできることがずっと多く、そのぶん探して潜っていく必要がある。一回は数秒でも、それが繰り返されると作っていたものが途切れます。画面は大きくなったのに、手はより忙しくなった。

もちろん新しいほうが明らかに良いこともあります。サンプルのチョップは比較になりません。ヴィンテージではジョグシャトルを一日中回さなければならない作業が、いまは波形を見ながら切ればいい。これはただ新型の勝ちです。

⑦ 結局1000を買いました ✅

そして最後に1000を買いました。クロームでカスタムされた個体です。昔デモの依頼で少し触って、わざわざ買うほどではないと思ったあの機械を、何年か経って自分の金で買ったわけです。

理由は、あのとき見えていなかったものがあとから見えたから。小さくてかわいい。机に置く負担がなく、持ち出すこともできる。大げさな理由ではなく、ただそれくらいのことなんですが、機材を長く触っていると、こういうものが意外と長く残ります。

短所は変わらずです。コマンドがパッドに埋め込まれているので、何かやろうとするとパッドを押しながら別のものを押すことになって、これがずっと引っかかる。パッドは叩くものなのに、その上に機能まで載せてあるから、二つの用途が混ざってしまう。小さな筐体に全部詰め込もうとしてそうなったのはわかるんですが、わかったからといって苛立たないわけではないんですよね。

ここまで書いてみると、この6台の順番にはっきりした方向がありません。良いものを求めて上がっていったのでもないし、古いものへ遡っていったのでもない。名前を追って60に行って失望し、必要に迫られてLive 2に行って不便を見つけ、買わなくていいと思っていた1000を結局買った。

UIは良くなったのにUXは良くなっていない部分があって、その逆の部分もある。前の世代のものを全部載せた上に新しく積んだのではなく、あるものは引き継がれ、あるものは引き継がれなかった、というほうが近い。3000にVailixiを入れて座っていると、いまでもかなり快適な感覚で作業ができるんですが、そういうのを見ていると、古いから不便だという言葉がいつも正しいわけではないと思えてきます。

⑧ Q&A 💬

Q. MPC60を買おうと思うのですが、どうでしょう?

A. 12ビットの質感が目的なら、わざわざ60である必要はないと思います。自分はすでに持っていたAKAI S612と比べてメリットを感じませんでした。フィルターもLFOもないので音を入れたあとでいじれるものがほぼなく、フロッピーなので呼び出しにも時間がかかります。あの名前と見た目が欲しいという話なら別ですが、それはそうだと認めたうえで買うほうがいいです。

Q. ヴィンテージMPCから一台だけ選ぶなら?

A. 3000です。ボイスごとにレゾナンス付きフィルターがあってベロシティでカットオフを開けるので、少ないキットで行ける幅がずっと広い。60にはそれがありません。Vailixi OSまで入れれば、いま使っても窮屈ではないです。

Q. 2000はいま買っても大丈夫ですか?

A. 出品が多いので選びやすいです。ただ、画面の暗化、パッドセンサー、8アウト拡張まわりの電源部の問題は確認してから買ってください。808系を通す用途では、自分が持っている中でいちばん合いました。

Q. ヴィンテージを使うと音は良くなりますか?

A. 良くなるというより変わります。自分も60で期待していた音は結局得られませんでした。すでにお持ちの機材でその質感が出ているなら、わざわざ増やす理由はないです。

Q. それで、60をまた買いますか?

A. たぶん買わないと思います。売らなければよかったと思うのと、いま金を出してまた買うのとでは、話が別ですから。

#DTM #音楽制作 #宅録 #DTMerと繋がりたい #MPC #サンプラー #ヒップホップ #ヴィンテージ機材 #AKAI #ビートメイク

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2026年9月11日金曜日

CPUが追いついてしまうまで — UADとDSPカードの20年

トラックを増やして、プラグインをもう一枚。その瞬間に再生がプツプツ言い出す。

今どきのマシンならめったに起きませんが、2000年代の頭はこれが当たり前でした。そこで出てきた答えのひとつが、その後20年以上プロの現場に居座ることになります。

一度消えた名前が、1999年に戻ってきた

Universal Audio。この名前、もとをたどると1958年からあります。作ったのはビル・パットナム(Bill Putnam Sr.)。1176を設計した、あのパットナムです。

ただ会社としては1970年代にいったん消えている。それを1999年、息子のビル・ジュニアとジムが復活させました。

最初にやったのは復刻です。父の1176、テレトロニクスのLA-2A。当時の図面どおりに、もう一度実機を作る。つまり出発点はアナログ機材屋でした。ソフトに手を出すのは、そのあとの話になります。

「実機じゃないとダメ?」という問い

UADが最初に並べたプラグインの顔ぶれが、なかなか挑発的でした。SSL 4000Eチャンネルストリップ、Neve 1073、1176。どれも「本物がないと出ない音」と言われてきたやつです。

当時の相場を思い出すと話が早い。SSLのコンソールは構成しだいで数十万ドル。1176だって気軽に増やせる値段じゃない。対してUADのプラグインは、安くはないけれど桁がひとつ違います。しかもソフトなので、一度買えばトラックの数だけ挿せる。実機を八台並べる話とは前提がまるで違うわけです。

問題はここから。この手のモデリングがとにかく重い。

実機ならアナログ回路が一発で通す処理を、コンピューターはサンプル単位で順番に計算していくしかありません。チャンネルストリップのように回路が入り組んでいるほど、演算量は跳ね上がる。CPUは毎年速くなっていたのに、プラグイン側の要求がそれを上回って伸びていきました。

軽く作るか、別のチップに投げるか

対処のしかたは、大きく分けて二通りでした。

ひとつは軽く作る。回路を全部再現するのはあきらめて、音を決めている部分だけ抜き出す。Waves、iZotope、FabFilterあたりはこの路線ですね。専用ハードが要らないので、使う側はパソコン一台で済みます。

もうひとつが、計算そのものを別のチップに投げてしまう方法。いわゆるDSPアクセラレーターです。UADが選んだのはこちらでした。2001年のUAD-1がそれで、PCIカードにSHARCというオーディオ用DSPを載せてある。重い処理をメインCPUではなく、このチップにやらせる仕組みでした。

いいところははっきりしていて、演算に余裕があるぶん回路を忠実に追える。悪いところも同じくらいはっきりしていて、カードを別途買わされる。しかも数百ドル。

それでもプロの現場は買いました。コンソールを一台入れる話と比べれば、カード数枚で近い音が出るなら安い。そういう計算です。

もうひとつのDSPカード、PowerCore

このままUADの独走かと思いきや、同じ2001年にもう一社。デンマークのTC ElectronicがPowerCoreを出してきます。

やっていることは同じ。SHARCを載せたカードに演算を預ける方式です。違ったのは持ち込んだ資産のほうでした。TC Electronicは、ハード屋として積み上げてきたアルゴリズムをそのままプラグインに移してくる。System 6000でマスタリングの現場に名前が通っていた会社です。リバーブとディレイの評判は、当時かなりのものでした。

しばらくは本当に二強でした。値段はPowerCoreのほうが少し優しく、付属プラグインも十分。ヴィンテージ機材の質感が欲しいならUAD、空間系とマスタリングならPowerCore。ざっくりそんな住み分けだったと思います。

UAD-2が突き放した

流れが変わったのが2008年。UAD-2の登場です。

SHARCが速くなって、カード一枚で立ち上げられるプラグインの数がぐっと増えました。形もPCIeカードだけでなく、ノート用のExpressCard、外付けのサテライトと選べるようになります。

効いたのは、むしろその先でした。演算に余裕ができたUAは、ライセンスを買い集めてモデリングの品数を増やしていきます。Neve、API、Manley、Ampex、Studer。メーカー公認のエミュレーションが積み上がっていって、気がつけばUADは「カードを売る会社」ではなく「あの音を持っている会社」になっていました。アナログ機材屋がプラグイン屋に化けたわけです。

PowerCoreはここで置いていかれます。2011年の頭、TC ElectronicがPowerCoreラインの生産終了を発表。DSPカードの市場には、UADだけが残りました。

同じことを10年早くやった会社

この発想、実はUAが最初ではありません。

E-mu。SP-1200やEmulatorを作った、あのE-muです。1993年にCreativeへ買収されたあと、2003年から2007年にかけて「Digital Audio System」という名前でオーディオインターフェースを出していました。0404、1212m、1820mといったPCIカードですね。

これに付いていたのがPatchMix DSPというソフト。カード上のDSPを使って、モニター経路にエフェクトを挿せる作りでした。このあと書くApolloの発想と、中身はほぼ同じ。しかも時期は10年ほど早い。

ところが売れませんでした。製品が悪かったわけではありません。当時のレビューはむしろ悪くなかったほうです。つまずいたのは別のところでした。

いちばん大きいのはMacに対応しなかったこと。ドライバはWindows専用で、Mac版は「準備中」のまま終わっています。プロの制作現場がMacに寄っていた時期に、これはそのまま響きました。

ブランドも不利だったと思います。親会社はCreative、製品ラベルは「Creative Professional」。Sound Blasterの会社が出したプロ用カード、という見え方になってしまう。E-mu側が「設計にCreativeは関わっていない」とわざわざ言って回らないといけなかったくらいでした。

加えて初期ドライバが生煮えのまま市場に出て、Windows 7用は最後までベータ止まり。PCIスロットそのものが消えていく時期とも重なります。

そしてE-muは畳まれました。

面白いのはここからで。E-muがあったのはカリフォルニア州スコッツバレー、Universal Audioの本社と目と鼻の先です。UAにはE-mu出身者が何人も入りました。創業者のデイヴ・ロッサム(Dave Rossum)本人も、2015年にUAへTechnical Fellowとして加わったとインタビューで語っています。彼の言葉を借りるなら「ex-muons」、元E-muの面々ですね。

ただ時系列だけは正確にしておきたいところ。Apolloが出たのは2012年で、ロッサムがUAに移ったのは2015年。つまりロッサムがApolloを作ったわけではありません。同じ土地で同じ問題を追いかけていた人たちが、結果として一つ屋根の下に集まった。そのくらいが実際のところかなと思います。

ともあれ、E-muが10年早く突っ込んで転んだその場所から、UAが仕切り直すことになります。

Apolloという答え

UAには、ずっと温めていた構想がありました。アナログとデジタルを一体にしてしまう、という考えです。

考えてみればこの会社、最初から両足を別々のところに置いていました。1176やLA-2Aを実機として作り直しながら、同じ回路をプラグインにも移していたわけですから。あとは二つを一つの箱に入れるだけ。音が入ってくる入口の段階で、もうモデリングが乗っている機械。

それが2012年のApolloでした。DSPをカードから、オーディオインターフェースの中へ移してしまう。

うまいのは、そもそもインターフェースを買わないと録音が始まらないという点。そこにDSPを仕込んでおけば、「カードも別に買ってください」と言わずに済みます。のちにUnisonが乗って、プリアンプのモデルに合わせて入力インピーダンスまで変わるようになりました。

とはいえ、これはカードを引っ越しさせただけの話ではありません。録りかたが二通り選べるようになります。

ひとつは掛け録り。1176やコンソールプリを通った音を、そのままファイルに残す。あとから戻せない代わりに、後工程がぐっと楽になります。

もうひとつは、録る音はクリーンのまま、歌う本人が聴くモニターにだけプラグインを掛けるやり方。データには素の音が残るので、あとからいくらでもやり直せる。

これがどれだけ効くかは、実際に人を立たせて録ってみると分かります。

コンプが気持ちよく掛かった声を返してあげると、歌い手は明らかに良く歌う。自分の声が前に出ているぶん、押すところと抜くところの判断がつきやすいんですね。リバーブも同じで、ドライのままだと落ち着かなくて本来の力が出ない人は珍しくありません。

かといって、そのコンプとリバーブまで掛け録りしてしまうわけにもいかない。返しには掛かっていて、録り音はクリーン。この状態が要るわけです。Apolloはそれを、遅れを感じない範囲でやってくれる。結局この会社がApolloで売っているのは、プラグインの本数ではなくこの状態だと思っています。

M1が前提を崩した

2020年、AppleがM1を出します。

マルチコアと電力効率が同時に上がって、音楽のようにコアを平均して使う仕事とは相性が良かった。M1、M2、M3と進むうちに、ノート一台で立ち上がるプラグインの数は伸び続けます。IntelもAMDもコアを積んで追いかけました。

こうなるとDSPカードは、必須ではなく選択肢に降りてきます。UA自身もそこは分かっていて、今はカードなしでCPUだけで動くネイティブ版を並べて売っている。自分の商売の前提を、自分で畳んだかたちですね。

16コアまで積んで、8コアまで戻した話

私も使っていた側です。PCIeカードも、Thunderboltのサテライトも通ってきました。多いときでコアは16。トラックが増えてコンソール系を何枚も挿すと、その程度はあっさり埋まります。

手放したのはApple Siliconが見えてきたタイミングでした。これは潮目が変わるなと思って、わりと急いで売りました。中古相場が本格的に落ちる前に動けたので、結果だけ見れば悪くない判断だったと思います。

今は8コアだけ残しています。全部処分しなかったのは、いざ無くしてみると惜しい場面がはっきりあったから。ただ昔のように全部をカードで回すことはしていません。重いものを何枚かカードに載せて、残りはネイティブ。この配分に落ち着きました。

これが思いのほか快適でして。カードのコアが埋まってプラグインが開かない、という事故がなくなりましたし、CPU側も昔ほど偏りません。これからUADを触る人にも、全部をカードで解決しようとしない線引きをおすすめしたいところです。

で、今から買う人はどうすべきか

大きな流れとしては、DSPカードを単体で買う理由は年々薄くなっています。ただしUADのプラグインを本気で使い倒す人なら別。その場合は今でも悪い買い物ではありません。

スタジオを回している人、エンジニアが本業の人には、まだ十分な理由があります。何十チャンネルもリアルタイムで走らせて、レイテンシーを詰めないといけない現場。ここは演算を逃がした効果がそのまま出ます。

ビートメイカーやプロデューサーは、たいてい無くても回るでしょう。最近のMacBook一台でだいたい片が付く。重いモデルを常用するタイプなら、私のように小さく一枚だけ残す手もありますが、そこは好みの範囲かなと。

ライブをやる人は考える価値あり。演奏中にプラグインが詰まったら、その場で事故ですから。性能ではなく安定を買う、という発想になります。

Windows派はもう少し分があります。とはいえ最近のRyzen上位なら、こちらもかなり粘ってくれる。

そしてオーディオインターフェースも一緒に考えているなら、私はApolloを推します。 どのみちインターフェースは要るわけで、さっきの返しの話がそのまま付いてくる。カードを別に足すより、順番としてはこちらが先です。

値段の話も一応。怖いのはカード代よりプラグイン代のほうです。チャンネルストリップ一つで数百ドル、使う分だけ揃えたらパソコンが買えてしまう。定価で買う人がほとんどいなくて、みんなセールを待つのが当たり前になっているのには、それなりの事情があります。

それでも残るもの

2020年代に入って、UADは真ん中から一歩下がりました。標準ではあるけれど、必須ではない。

これは悪い話ではないと思っています。作る側からすれば、選べる幅が広がったわけですから。高いハードを買わないとあの音に届かない時代は、もう終わりました。

面白いのは、それでも古いものが消えないこと。NeveやSSLのモデルは、今も大きなスタジオで動いています。モデリングが精密だからでもあるし、その音をもう信用しているからでもある。Auto-Tuneが出たあとも手でピッチを直す人が残っているのと、たぶん同じ理屈です。

技術はだいたい、選択肢を広げる方向に進みます。どこまで揃えるかは、結局作る人が決める話ですね。

#DTM #音楽制作 #宅録 #DTMerと繋がりたい #UAD #プラグイン #ハードウェア #CPU #アクセラレーター #デジタルオーディオ #機材史

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全部整えたのに曲が平坦なとき — オートメーション

バランスも取ったし、EQもかけたし、コンプもかけた。ソロで聴けばトラック一本一本は悪くない。なのに頭から通して聴くと、なぜか退屈です。1小節目で鳴っていた音が、3分後もそのまま同じに聞こえるからです。

問題は音ではなく時間にあります。ミックスが一度決まったあと、何ひとつ動いていない。良いミックスはうまく撮れた写真ではなく、うまく編集された映像に近いものです。その瞬間ごとに、どこを見せるかが変わっていく必要があります。

それをやる道具がオートメーションです。

① オートメーションとは何か 🎚️

オートメーションとは、何かの値を時間に沿って変えていくことです。ボリュームフェーダーがAメロでは-6dBにあって、サビで-3dBまで上がる。フィルターのカットオフが8小節かけてじわじわ開いていく。リバーブのセンドが一語だけ一瞬大きくなる。全部オートメーションです。

もともとは人が手でやっていた仕事でした。ミキシングコンソールの前でエンジニアがリアルタイムにフェーダーを上げ下げしていたんです。手が足りなければ二人三人がコンソールに張り付いて、それぞれ担当のフェーダーを動かしていました。1970年代前半にAllison ResearchがVCA方式でフェーダーの動きを記録するシステムを作りました。1977年にはNeveがロンドンのAIR StudiosにNECAMというモーターフェーダーの自動化システムを納入しています。フェーダーが勝手に動く仕組みとしては最初期のものです。記録どおりにフェーダーがひとりでに動くのを初めて見た人たちの反応は、想像がつきますね。

いまはDAWの中で線を引けば済みます。トラックごとにオートメーションレーンを開いて点を打つか、再生しながらノブを回せばその動きがそのまま記録される。方法は簡単になりましたが、何を動かすべきかは相変わらず人が決めなければなりません。

② なぜ静的なミックスでは足りないのか 📉

トラックごとのバランスは一度決めたら終わり、と考えがちです。でも曲はパートごとに事情が違います。

Aメロでちょうどよかったボーカルの音量が、サビでは埋もれる。サビは楽器が多くて大きいからです。逆にサビに合わせてボーカルを上げておくと、Aメロでは前に出すぎる。どちらかに合わせるともう片方がずれる構造なので、両方を満たす値はそもそも存在しません。

コンプレッサーである程度は解決できます。大きいところを押さえてくれますから。ただコンプは音量しか見ていなくて、文脈は見ていません。この区間はサビだからボーカルが前に出るべきだ、という判断は人にしかできない。コンプが平均を揃えてくれて、その上に人が意図を乗せるのがオートメーションです。

そしてもっと大事な理由があります。耳は変化がないとすぐ慣れます。最初は印象的だった音も30秒たてば背景になる。だから曲が進む間、何かが少しずつ変わり続けないと、聴いている人の注意が保てません。オートメーションはバランスを取る道具でもありますが、それ以上に曲を生きたものにする道具です。

③ まず最初に — ボーカルのボリュームライド 🎤

オートメーションを初めて使うなら、ボーカルの音量から始めることを勧めます。効果がいちばん大きく、失敗しても目立ちにくいからです。

やり方はこうです。ボーカルトラックをソロではなくミックス全体の中で聴きながら、聞こえにくい単語が出てきたらその単語だけ1〜2dB上げる、飛び出す単語は1〜2dB下げる。フレーズ単位ではなく単語単位です。一曲で数十個の点が打たれるのが普通です。

ここでコンプとの順番が重要になります。このボリュームライドはコンプの前でやるのがいい。クリップゲインか、コンプ手前のトリムでやります。そうするとコンプに入る信号そのものが揃うのでコンプの仕事が減り、結果がずっと自然になります。コンプの後ろでフェーダーを使うオートメーションはその次の段階。前で揃えて入れて、後ろでパートごとの大きさを決める、という順番になります。

実はこの作業、コンプレッサーが生まれる前からエンジニアが手でやっていた仕事なんです。ボーカルライダーというプラグインがこれを自動でやってくれたりもしますが、最初の何曲かは自分の手でやってみてください。どこを上げ下げすべきか耳が覚えないと、自動の道具もまともに使えません。

④ 二つ目 — フィルターで作るビルドアップ 🔊

エレクトロニックやポップスで、サビ直前に音がじわじわ満ちてきて、ぱっと開く瞬間があります。ほとんどがフィルターのオートメーションです。

いちばんよくある形は、ローパスフィルターのカットオフを8小節か16小節かけてゆっくり上げていくもの。最初は低音だけ残ってこもって聞こえ、だんだん高域が開いて明るくなり、サビでフィルターが完全に抜けて音が弾ける。逆にハイパスをゆっくり上げて低音を抜いておき、ドロップで一気に解放する方法もあります。こちらは低音が戻ってくる瞬間の衝撃が大きい。

注意点は、このオートメーションをマスターバスにかけないことです。マスターにフィルターをかけると楽ではあるのですが、あとでその区間だけ直したいときに全部やり直しになりますし、マスタリングの段階でも邪魔になります。ドラムバスやシンセバスのようにグループ単位でかけるほうが管理しやすいです。

それと、フィルターが開いていくカーブは直線より終わりで急になる形のほうが、たいてい自然に聞こえます。最初の6小節はゆっくり、最後の2小節でぐっと。直線で引くと中間がのっぺりします。

⑤ 三つ目 — センドのオートメーションで投げる 🌊

リバーブやディレイをトラック全体にかけると曲がぼやけます。ところが特定の一語だけにかけると、その一語が空間に飛んでいく。これをスローと呼びますが、オートメーションがないとできない技法です。

やり方は、リバーブやディレイをセンドチャンネルに置いて、ボーカルトラックのセンド量を普段は0にしておき、フレーズの最後の単語だけぐっと上げる。その単語が終わった瞬間にセンドを0に戻すと、残響だけが残って、次のフレーズが始まるまでの隙間を埋めてくれます。

これが効く理由は、リバーブがボーカルの上に乗るのではなく、ボーカルが終わったあとに現れるからです。明瞭さはそのままで、空間だけを得られる。サビの最後の単語、ブリッジに入る直前、曲の一番最後。この三か所に使うだけでも曲がずっと広く聞こえます。

ディレイスローだとここにリズムが加わります。付点8分か4分のディレイをセンドに置いて一語を投げると、その一語が拍に合わせて跳ね返ってくる。ヒップホップとR&Bで特によく使われるやり方です。

⑥ そのほかよく動かすもの 🎛️

前の三つが基本で、慣れてくると他のものにも手が伸びます。

🔹 パン — イントロで狭く寄せておいて、サビで左右に広げるとサビが大きくなったように感じます。音量を上げずに大きく聞かせる方法です。

🔹 エフェクトのパラメーター — ディレイのフィードバックをフレーズの終わりで上げて無限に回すとか、コーラスの深さをブリッジだけ深くするとか。プラグインのほぼすべてのノブはオートメーションできます。

🔹 ミュート — 特定の楽器を1小節だけ抜くのもオートメーションです。ドロップ直前にドラムを1拍空けるなら、音量を下げるよりミュートを入れるほうがきれいです。

🔹 テンポ — 曲の最後で遅くなる、ブリッジで少し前に詰める。他のオートメーションとは性格が違いますが、これも時間に沿った変化です。

⑦ モードを知らないと事故になります ⚙️

DAWによって名前は多少違いますが、オートメーションのモードはだいたい四つです。

🔹 Read — 記録されたオートメーションを再生するだけ。ノブを回しても記録されません。普段はこの状態にしておきます。

🔹 Write — 再生している間、ノブの位置を記録し続けます。触らなくても現在位置がそのまま記録される。だから危険です。すでに線を引いてあるトラックでWriteのまま再生すると、全部消えます。

🔹 Touch — ノブを触っている間だけ記録し、離すと元のオートメーションに戻る。一部だけ直すとき向きです。

🔹 Latch — ノブに触れると記録が始まり、離してもその値を保ったまま記録し続ける。ある地点から最後まで変えたいとき向きです。

最初はReadにしてマウスで点を打つのが安全です。リアルタイムにノブを回して記録するのはTouchから始めてください。Writeは本当にゼロから書き直すときだけです。

Ableton Liveはこうしたモードの代わりに描く方式が基本で、再生中にノブを触るとそのパラメーターのオートメーションが一時的に無効になります。戻すには上部の「オートメーションを再度有効化」ボタンを押す必要があります。これを知らずに「オートメーションが効かない」と長いこと悩む人が多いです。FL Studioはオートメーションクリップという別の要素として扱い、パターンとは独立しているので、一つのクリップを複数のパラメーターに割り当てることもできます。

⑧ よくある失敗 ⚠️

🔹 全部動かそうとする。 すべてのトラックにオートメーションが引いてあると、何も動いていないのと同じです。一曲に本当に必要なオートメーションは10個前後。あとはやらなくていい。

🔹 オートメーションのあとにコンプの設定を変える。 ボリュームライドを全部やってからコンプのスレッショルドを変えると、ライドが前提にしていた条件が変わります。順番はコンプの設定が先、オートメーションが後。変えるならライドを見直す必要があります。

🔹 急な変化でプチッと鳴る。 フィルターのカットオフや音量を一点でがくっと変えるとクリックノイズが出ることがあります。完全に垂直に引かず、数ミリ秒でも傾けてください。エフェクトのオンオフをオートメーションするときも同じで、できればオンオフではなくミックス量を0から100に動かすほうが安全です。

🔹 マスターフェーダーを動かす。 曲の最後のフェードアウトでマスターの音量オートメーションを引く人が多いのですが、そうするとマスタリング段階でリミッターに入る信号が一緒に下がって処理がずれます。フェードアウトはマスタリングのあとに、あるいはマスタリングエンジニアに任せてください。全部自分でやるなら、リミッターの後ろにフェーダーをもう一つ置いてそこでやる方法もあります。

🔹 メーターを見て引く。 オートメーションは耳で引くものです。波形が小さく見えるから上げるのではなく、聞こえないから上げる。画面を消して聴く時間が要ります。

⑨ Q&A 💬

Q. オートメーションはミックスのどの段階でやりますか?

A. バランス、EQ、コンプまで静的に決めたあと、最後にやります。前の段階が変わるとオートメーションも見直しになるからです。ただしボーカルのクリップゲインライドは例外で、コンプをかける前に先にやっておくほうがいいです。

Q. マウスで描くのとノブを回して記録するのはどちらがいいですか?

A. 正確な値が要るならマウス、自然な流れが要るならノブです。ボリュームライドはノブやフェーダーでリアルタイムにやるほうが人の手の感じが出ていいですし、フィルタースイープのように決まった区間を正確に埋めるのはマウスが楽です。

Q. オートメーションの点が増えすぎて管理できません。

A. たいていのDAWにオートメーションの簡略化やシンニング機能があります。リアルタイムで記録すると点が数百個できますが、これを減らしても音はほぼ同じです。それと、トラックごとのオートメーションレーンは作業が終わったら畳んでおいてください。画面がごちゃつくと判断も鈍ります。

Q. コンプをうまくかければボリュームオートメーションは要らないのでは?

A. コンプは大きい音を小さくしますが、どの単語が大事かは知りません。静かに歌った大事な歌詞はコンプが上げてくれない。それは人が上げるしかありません。

Q. プラグインのパラメーターをオートメーションするとCPUを食いますか?

A. 値が変わるたびにプラグインが計算し直すので、ある程度はそうです。ただ今のパソコンで問題になるほどではなく、どうしても気になるならオートメーションが終わったトラックをオーディオにバウンスしておけば済みます。

⑩ 今日やること ✍️

いま作っている曲を開いて、20分あれば足ります。

1. ボーカルトラックのオートメーションレーンを開きます。ボリュームではなくクリップゲインかコンプ前のトリムがあればそちらで
2. ミックス全体を流しながらAメロを聴きます。聞こえない単語が出てきたら止めて、その単語だけ1.5dB上げます
3. 飛び出す単語は1.5dB下げます。Aメロの終わりまでこれを続けます
4. サビの最後の単語を探して、リバーブのセンドをその単語だけ上げてすぐ下げます
5. サビ直前の4小節でドラムバスのハイパスをゆっくり上げ、サビの頭で戻します
6. 頭から最後まで一度聴いて、やる前のバージョンと聴き比べます

この三つだけでも曲が動き始めます。あとはこれに慣れてから一つずつ足していけばいいです。

まとめ

オートメーションは派手な効果ではありません。ほとんどは1.5dBの点が数十個です。聴く人は何をしたかわからない。ただ歌詞がよく聞こえて、サビが大きく感じられて、曲が退屈しないだけです。

ミックスがちゃんと整っているのに平坦なら、音をこれ以上いじるのではなく、時間をいじる番です。静的なものを動くようにする。それが最後の一手になります。

#DTM #音楽制作 #宅録 #DTMerと繋がりたい #ミックス #オートメーション #ボーカルミックス #リバーブ #ビルドアップ #アレンジ

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