2026年7月28日火曜日

DAWを開いて固まった人へ — 打ち込みの基本3つ(ピアノロール・ベロシティ・クオンタイズ)

前回でDAWを選んだとして、次に本当の問題が来ます。開いたはいいけど、何をすればいいのか分からない。

空っぽの画面にマス目だけがびっしり並んでいて、どこを押せば音が出るのかも分からない。ここでウィンドウを閉じてしまう人が本当に多いんです。

今日扱うのは3つだけです。この3つを押さえれば、今日中に8小節のドラムパターンが作れます。どのDAWを使っていても同じように通用します。

💡 今日の3行まとめ
1. MIDIは「音」ではなく「演奏の指示書」— この理解だけで半分は終わり
2. ピアノロールは縦が音の高さ、横が時間。それだけ
3. ベロシティを触らないと、どんなに良い音源でも機械っぽく聞こえる

📋 目次
① MIDIって結局なんですか
② ピアノロールの読み方
③ 最初のノートを置いてみる
④ ベロシティ — 機械と人間を分けるもの
⑤ クオンタイズ — 便利な機能と、その落とし穴
⑥ ノートの長さも音を変えます
⑦ 何から作ればいいですか
⑧ Q&A
⑨ 今日やること

① MIDIって結局なんですか 🎹

midi_vs_audio_ja.png


まずここを押さえないと、この先ずっと混乱します。

🔹 MIDIは音ではありません

MIDIはMusical Instrument Digital Interfaceの略で、楽器同士が演奏情報をやり取りするために1983年に作られた規格です。大事なのは情報という言葉です。

MIDIデータの中に音は一切入っていません。代わりに書かれているのはこれだけ。

・どの音を(ド、レ、ミ…)
・いつ(何拍目に)
・どのくらいの強さで
・どのくらいの長さで

楽譜を思い浮かべると正確です。楽譜の紙からは音が出ませんよね。演奏者がいて初めて音になる。MIDIも同じです。MIDIが楽譜、ソフト音源が演奏者です。

🔹 オーディオとの違い

オーディオはすでに録音された音そのものです。歌を録音すればオーディオになります。一度録ってしまうと、音程を変えたり楽器を差し替えたりするのは難しい。

MIDIは指示書なので、あとからいくらでも直せます。ピアノで打ち込んだメロディをあとでバイオリンに変えてもいい。指示書はそのままで、演奏者だけを交代させる感覚です。音がひとつ間違っていたら、そのノートを上下にドラッグすれば終わりです。

この自由さが、打ち込みで作業する最大の理由です。

② ピアノロールの読み方 📐

pianoroll_map_ja.png


MIDIを入力する画面をピアノロール(Piano Roll)と呼びます。名前の由来は自動ピアノです。昔、穴の開いたロール紙を入れると勝手に演奏されるピアノがあって、その紙の形をそのまま画面に持ってきたものです。

最初は複雑に見えますが、軸は2つだけです。

🔹 縦軸 = 音の高さ

画面の左端にピアノの鍵盤が縦に寝ています。上に行くほど高い音、下に行くほど低い音。ノートを上下にドラッグすれば音程が変わります。

🔹 横軸 = 時間

左から右へ時間が流れます。ノートを右にずらせばその分あとで鳴り、横に伸ばせば長く持続します。

🔹 マス目 = 拍

画面に細かく引かれた縦線が拍です。太い線が小節の頭、その間の細い線が拍を分割した単位です。

ここで出てくる用語がグリッド(grid)。このマス目の細かさを決める設定で、DAWの上部に 1/4、1/8、1/16 といった数字で表示されています。

・1/4 = 4分音符単位。1小節に4マス
・1/8 = 8分音符単位。1小節に8マス
・1/16 = 16分音符単位。1小節に16マス

数字が大きいほどマス目が細かくなり、細かいリズムが打ち込めます。最初は1/16にしておけば大抵の場面はカバーできます。

そしてスナップ(snap)という機能をオンにしておくと、ノートがマス目にピタッと吸い付きます。初心者はオンにしておくほうが断然ラクです。適当に置いても拍が合ってくれます。

③ 最初のノートを置いてみる ✏️

理屈はこのくらいで十分です。手を動かしましょう。

🔹 手順はこれだけ

1. 新しいMIDIトラックを作る
2. ソフト音源をひとつ立ち上げる(ピアノでもドラムでも)
3. 空いている区間をダブルクリックしてMIDIクリップを作る
4. クリップをダブルクリックするとピアノロールが開く
5. 鉛筆ツールでマス目をクリック → ノートができる

以上です。本当にこれだけ。

🔹 最初につまずくところ

音が出ないときは、たいていソフト音源を立ち上げていないか、トラックがミュートになっています。MIDIだけ打ち込んで音源がない状態は、指示書だけあって演奏者がいないので当然静かです。

ノートがマス目に吸い付かないときは、スナップがオフになっています。

④ ベロシティ — 機械と人間を分けるもの 💪

velocity_compare_ja.png


ここからが本題です。初心者の打ち込みが「機械っぽい」と言われる理由は、ほぼこれです。

🔹 ベロシティとは

ベロシティ(Velocity)は鍵盤を叩いた強さのことです。0から127までの数字で記録されます。0がいちばん弱く、127がいちばん強い。

名前が「速度」なのは、実際のピアノでは鍵盤をどれだけ速く押し下げたかが音の強さを決めるからです。強く弾くには速く押す必要がありますよね。

🔹 なぜこれが決定的なのか

マウスでノートを置くと、すべてのノートが同じベロシティ(たいてい100前後)で入ります。するとどうなるか。

すべての音がまったく同じ強さで鳴ります。人間は絶対にそんな演奏をしません。どれだけ正確な演奏者でも、音ごとにわずかに強さが違う。そのわずかな差が消えると、耳は即座に「これは人間じゃない」と判断します。

高価なソフト音源を買ったのに音が安っぽく聞こえるなら、音源のせいではなくベロシティが平坦なせいである可能性が高いです。

🔹 どう触ればいいか

ピアノロールの下に棒グラフのような領域があります。それがベロシティレーンです。棒を上下にドラッグすれば強さが変わります。

始めるときはこれだけ覚えてください。

・強拍(1拍、3拍)は少し強く
・弱拍は少し弱く
・ドラムのハイハットのように細かく繰り返す音は、特に強弱を入れないと死ぬ
・数値ではなくが大事。90と95を行き来するだけでも自然になります

📋 実戦でいちばん速い方法
全ノートを選択して「ランダマイズ」機能で軽く散らすことです。ほとんどのDAWにあります。±10程度でも印象がガラッと変わります。ただしこれは応急処置で、どこを強調するか自分で決めるほうがずっと良い結果になります。

⑤ クオンタイズ — 便利な機能と、その落とし穴 ⏱️

quantize_before_after_ja.png


🔹 クオンタイズとは

クオンタイズ(Quantize)は拍からズレたノートをマス目に揃える機能です。

鍵盤で実際に弾いて録音すると、どれだけ上手くても数ミリ秒ずつ前後します。それを自動できれいに整えてくれる。ボタンひとつでガタガタだったノートがマス目にピタッと並びます。

マウスで置く場合はすでにマス目に乗っているので出番は少ないのですが、MIDIキーボードを繋いで弾き始めると毎日使うことになります。

🔹 ただし100%が常に正解ではありません

ここは一度立ち止まる価値があります。

ノートを全部マス目に正確に揃えるとリズムは完璧になります。ところが完璧なリズムは、しばしば退屈に聞こえる。人間の演奏から感じるあの前後の揺れ、いわゆるグルーヴは、まさにその微妙なズレから生まれているからです。

実際、ドラマーはスネアをほんの少し遅らせて叩くことが多い。それが曲を重く、どっしりさせます。逆に速いダンスミュージックでは少し前に突っ込むと、曲が前へ進む感じが出ます。

そのためほとんどのDAWにはクオンタイズの強さ(strength)というパラメーターがあります。100%ならマス目に完全に貼り付け、70%ならマス目の方向へ70%だけ引き寄せて、残りのズレは活かします。

💡 始めるときの目安
・電子音楽・ヒップホップのドラム:100%から。正確さがジャンルの性格そのものです
・アコースティックな演奏、バンド感:70〜90%で余白を残す
・ただしこれはあくまで出発点です。かけて、聴いて、違和感があれば戻してください

最初は100%で全部揃えても構いません。リズムがヨレているよりはずっといい。ただ「クオンタイズしたのに、なんだか硬い」と感じる瞬間が来たら、そのときこの話を思い出してください。

⑥ ノートの長さも音を変えます 📏

意外と見落とされる部分です。

同じ音、同じ強さでも、ノートを短く切ればブツブツ切れる感じ、長く伸ばせば繋がる感じになります。ベースで特に分かりやすい。ノートをぎっしり詰めると重く繋がり、半分に切るとポンポン跳ねる感じになります。

🔹 触ってみる価値があるところ

・ベース:長さを少しずつ変えながらグルーヴを探す
・ストリングス・パッド:ノートを重ねると滑らかに繋がる
・ピアノのコード:全部同じ長さより、少しずつ違えると自然

⑦ 何から作ればいいですか 🥁

メロディから打とうとして詰まる人が多いです。順番を変えることをおすすめします。

🔹 ドラムから始めてください

理由があります。ドラムは音程がないので音楽理論を知らなくていい。キック、スネア、ハイハットの3つだけで曲になります。そしてピアノロールの操作を覚える練習としてこれ以上のものはありません。

いちばん基本的な8ビートはこうです。

・キック:1拍、3拍
・スネア:2拍、4拍
・ハイハット:8分音符でずっと(1/8グリッドに並べる)

これだけでもう音楽です。ここにハイハットのベロシティを強弱で揺らしてみてください。急に生き返ります。

そのあとベースを乗せ、コードを乗せ、最後にメロディを乗せればいい。

⑧ Q&A 💬

Q. MIDIキーボードは必須ですか?

A. なくても大丈夫です。マウスだけで完成度の高い曲が作れます。ただしあると作業速度が何倍にもなりますし、演奏で入った微妙な強弱とタイミングが自然さを作ってくれます。25鍵の小型なら1万円台からあるので、続けるつもりなら早めに買うことをおすすめします。

Q. マウスで打ち込んだのはバレますか?

A. ベロシティを触らなければバレます。逆にベロシティとノートの長さだけ丁寧に整えれば、マウス打ちと演奏入力の区別はほぼつきません。実際、商業作品でも全部マウスで作られた曲はたくさんあります。

Q. 音楽理論を知らなくても打ち込めますか?

A. ドラムは理論が一切いりません。メロディやコードに進むと知っていたほうが有利ですが、知らなくても耳で探りながら覚えられます。最近のDAWにはコードトラックやスケールガイドがあって、外れた音を打てないようにしてくれる機能もあります。

Q. ベロシティはいくつに設定すればいいですか?

A. 決まった数字はありません。ソフト音源ごとに反応がまったく違います。100を超えた途端に音色が激変する音源もあれば、ほとんど変化しない音源もある。だから数字を覚えるより、その音源を鳴らしながらベロシティを上下に振って、どこで音色が変わるかを自分で確かめるほうが早いです。

⑨ 今日やること ✍️

読んで終わりだと何も残りません。今すぐDAWを開いて、これだけやってみてください。

1. ドラムトラックをひとつ作る
2. 8ビートを8小節打ち込む(キック1・3拍、スネア2・4拍、ハイハット8分音符)
3. ハイハットのベロシティだけ強弱で揺らす
4. 揺らす前と後を聴き比べる

4番が肝です。その違いを耳で確かめた瞬間、ベロシティがなぜ重要なのか説明なしで腑に落ちます。

数値は正解ではなく出発点です。最終的な判断は耳がします。

おわりに

今日の内容を一行に圧縮するとこうです。

「MIDIが楽譜、ソフト音源が演奏者。そしてその楽譜を人間らしくするのがベロシティ。」

次回はここから一歩進んで、コードを知らなくても和音を積む方法を扱います。気になることはコメントで教えてください。

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